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濱 敏弘 さん
(はま・としひろ)
癌研有明病院 薬剤部長
1980年明治薬科大学卒業。国立横浜病院、国立療養所中野病院、国立国際医療センターを経て、2006年より癌研有明病院に勤務。がん専門薬剤師認定試験委員長を務める。
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3大腸がん(手術不能、再発、転移)の化学療法

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「次に手術不能、進行、再発、転移の大腸がんの場合ですが、中心的な薬剤は5つあります(右図)。まず1つ目は、術後補助化学療法と同じく5-FUという薬です。薬の効果を高めるために、レボホリナートという薬を一緒に使います。

2つ目はイリノテカンという薬です。5-FU、レボホリナートと組み合わせて使います。これをFOLFIRI療法といいます。

3つ目がオキサリプラチンです。これも5-FU、レボホリナートと組み合わせて使います。FOLFOX療法といいます。FOLFIRI、FOLFOX療法はどちらを先に使ってもよく、効果は同じ程度といわれています。

4つ目と5つ目はベバシズマブとセツキシマブという分子標的治療薬です。FOLFIRI、FOLFOX療法と組み合わせて使います。

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もうじきパニツムマブという分子標的治療薬も登場してきます(2010年6月〜)。また5-FUは48時間の点滴が必要ですが、その代わりに内服薬のカペシタビンとオキサリプラチンを組み合わせたXELOX(ゼロックス)療法という療法も最近承認されました(右図)。」

●抗がん剤治療の効果

「がんの種類、進行具合、その人の状態、薬の組み合わせによっても治療効果はかなり違いますので、一概にいうことはできません。手術不能な大腸がんに対する抗がん剤治療の効果について、全体的に見るとこのグラフに示すようなデータがあります。

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いちばん上の棒の長さは5ヵ月となっています。この棒は、大腸がんになっても抗がん剤治療を受けなかった人たち(ベストサポーティブケア)の半分は、抗がん剤治療をしなくても5ヵ月以上生きることができたけれど、半分の人は5ヵ月生きることができなかったということを示しています。

その下の棒は、5-FU・ロイコボリン療法を受けたグループでは半分の人は12ヵ月生きることができ、半分の人は12ヵ月生きることができなかったことを示しています。このような数字を生存期間の中央値といいます。

抗がん剤治療を受けなくても1年以上生きている人もいれば、抗がん剤治療を行っても数ヵ月でお亡くなりになる方もいらっしゃいます。しかし、抗がん剤治療はしたほうが平均的には長く生きられることが示されています。」

●抗がん剤治療効果の判定

「効果があるかどうかの判定は、ひとつは『がんがどれだけ小さくなったか』『がんが大きくなるのをどれだけ遅らせることができたか』とういことで判定します。がんは何も治療をしないとどんどん大きくなりますから、小さくならなくても、大きくならなければ効果があると考えます。

もうひとつの観点は、『患者さんがどれだけ延命できたか』『どれだけ元気でいる時間を作ることができたか』という視点から評価をします。それぞれ『全生存期間、無増悪生存期間が延長できた』などといいます。」

●使用している薬の治療効果がなくなった場合

「今行っている治療の効果がなくなった場合、ガイドラインに従って別の抗がん剤を組み合わせて治療を行います。しかしこの場合、最初の治療に比べて効果が弱かったり副作用が出やすかったりすることがあります。患者さんのパフォーマンス・ステータス(PS)や病気の進み具合により、積極的な治療を行うことが難しいと判断した場合には、それ以上の抗がん剤治療を行わずに、症状緩和を目的とした治療に移る場合もあります。

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パフォーマンス・ステータスとは、全身状態を表す世界共通の指標です。PSは0から4の5段階に分類されます(右表)。

患者さんの状態が悪く、無理して抗がん剤治療を行っても、治療に体がついていかず、却って患者さんの状態が悪くなってしまうことがあります。調子が悪いからといって投与量を減らして治療をしても効果が期待できず、副作用だけが出てしまうことがあり、やはり患者さんの状態を悪くしてしまいます。そのため抗がん剤治療をする場合、PSを把握することはとても重要です。

臨床試験ではPS0から1の状態、実際の臨床でも標準的な治療は原則的にはPS0または1の患者さんが対象となります。PS2の方は状況に応じて抗がん剤治療の適用となります。PS3または4の患者さんは、抗がん剤治療は推奨されません。」