がんと向き合う

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海老造さん
(えびぞう)
(ニックネーム)
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1933年東京生まれ。伝統工芸職人。2001年に血便があり、かかりつけ医を受診、直腸がんを疑われる。紹介先の大学病院で直腸がんと診断され、直腸がん切除術を受け、人工肛門を造設。術後の抗がん剤治療はなし。退院後、人工肛門によるトラブルを数多く経験するものの、現在は食事や行動を調節して充実した毎日を送る。手術の後遺症、再発、転移はなし。趣味は歌舞伎鑑賞、中国の占いなど。
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3大学病院に入院

「手術の内容について、家内と子どもを呼んで、先生がいろいろ説明してくださいました。医局の方や他の先生も立ち会っていらっしゃいました。私のがんは、『こういうふうになっていてこうだから、こういう病変のときは、たとえば肛門温存をご希望かもわかりませんけど、あまりにも肛門とがんができている位置との間隔がなさすぎる。これがもう何センチか上にあれば、肛門を温存できるかもわかりませんけど、人工肛門を嫌って無理に肛門温存手術をすると、いろいろなリスクがある』というふうにご説明があったのです。

そのリスクというのはまず再発で、結局、肛門を温存しようとすると、温存するために手術そのものが思い切ってできない。そうするとたとえば直腸がんの病巣が残って、比較的早く再発する恐れがあると。それから仮に再発しなくても、私はもう高齢ですから、肛門括約筋そのものの機能が非常に衰えるので、場合によっては肛門で便を溜めておかれなくて、俗な言い方で言うと垂れ流しになってしまうということで、これからの人生を考えた場合にやはり一応『いろいろご不自由なこともあるかもわからないけど、人工肛門をされたほうがいいのではないかと私は思う』と先生が説明してくださったのです。ですから、そういった意味では非常に懇切なご説明だったな・・・と思いますね。」

●生きていればこそ

「本当はね、肛門があるほうがこれはもう確かに非常に快適ですよね。肛門があって、直腸と肛門がちゃんと健常者と同じように機能すれば、こんなに快適なことはありません。けれどもう残念ながらそれは直腸にがんがあるわけで、それを治すためには、それなりの処置をしなければならないし、そのために肛門がなくなる、これはやむを得ないな・・・と思いましたね。

『じゃ、肛門がなくなるのと生きるのとどちらを選ぶか』と言われたら、やはり肛門がなくても生きているほうがいいですからね。なかには、『肛門が大事だから、肛門がなくなるなら死んじゃったほうがいい』という人がいないとも限りませんけど、私の場合は、生きていればやはり感動もありますからね。いろいろ何か食べたり、美味しいとかまずいとかということも体験できますし、いろいろ好きな芝居を観たり、映画を観たり、旅行に行ったり。旅行の場合は少し差し支えがある場合はありますが、それは体験できる。肛門がないことと秤にかければ、肛門がなくても、その肛門のない不自由さのなかで自分のこれからの人生をどうやって充実させて、エンジョイしていくかということを選択すれば、やはり人工肛門になることは、これはもう別に改めて避けるという気持ちはなかったですね。

手術が終わったときいちばん感じたのは激痛です。これはやはり痛かったですね。まあ一晩でしたけど、ほんとうに痛かったです。やはり肛門を切除されていますから、これは痛みますよ、相当。

日を追うごとに、一日経てば経つほど、痛みはどんどん薄れてきますから。人間てすごいですよ。痛みがなくなってくると、もうそれが平気になっちゃう。なんともなくなっちゃうんですよね。だから生きていられるのでしょうけど。」