がんと向き合う

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星野史雄 さん
(ほしの・ふみお)
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東京家政大学非常勤講師。1997年、妻が乳がんで亡くなったことをきっかけに闘病記を集め始め、翌年、闘病記専門古書店「パラメディカ」を開店。2010年7月、直腸がん(ステージ4)+肝転移が見つかり、8月に手術。大腸がんの闘病記を過去に100冊以上読んでいた知識が、自身の闘病にも役に立っている。共同編著に『がん闘病記読書案内』。自らの闘病体験を記した『闘病記専門書店の店主が、がんになって考えたこと』が2012年9月、産経新聞出版より発売された。
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3入院生活

「入院していた1ヵ月間はとにかく早く手術して、『娑婆に出たい』という気持ちだけでした。知り合いには、『星野さんのことだから、病棟にパソコン持ち込んだのか』とよく聞かれるのですが、持ち込む元気はなかったです。

手術をして回復室を出た晩は、もう横になったまま携帯メールで知り合いに連絡していました。『手術は終わったけれど、痛くて眠れない』などとメールを送っていました。やはり『入院患者の最良の友は、携帯電話』ですね。大部屋にいて通話は禁止されていますが、メールは着信などの音がしないようにすれば、部屋では文句を言われませんでしたから。それは非常に(助かりました)。

うちの女房が15年前に闘病したときには、ポケットベルと病棟の電話で連絡を取ったりしていたのですけどね。やはり携帯を使えると使えないとでは、入院生活がずいぶん違ってくると思いました。」

●食欲が全然なかった

「僕が入院生活で唯一お医者さんや看護師さんたちを困らせたというのは、食欲が全然なかったことです。流動食のあと普通の食事ができるようになったはずなのですが、何の影響なのか、食事の匂いがものすごくいやでした。水ばかり飲んでいたせいかもしれませんが。ですから入院中はヨーグルトを除くと固形物を食べていないのです。『食べないと退院できませんよ』と脅かされたのですが、それでもだめでした。これは20日間ぐらい水ばかり飲んでいた影響なのか、肝臓を切った影響なのか、肝機能を上げるために飲んだ薬の影響なのか、よくわからないのですが、食べられないというのは問題ですね。

あるメーカーのナントカ茶というのが病棟の自動販売機にあり、もともとそれが好きだったのでそれを飲んでいたのですが、さすがに20日間毎日それだけを飲んでいると、もう2度と飲みたくないという気がします。お茶だけ20日間飲んで、それを看護師さんたちは点滴で体重が落ちないように体調管理をしてたいへんだったと思います。」

●入院中いちばんつらかったこと

「入院中にいちばんたいへんだったことがあります。退院する前に傷口が1箇所開いてしまい、主治医が回診のときに、『これ縫ってから退院しましょうね』と言ったのです。その朝、主治医が回ってきてゼリー状の痛み止めか何かをちゃちゃと塗って、糸と針で(目の前で)縫っていきました。あまり見たくないので目をつぶっていたのですが、針が刺さって、反対側に糸がしゅっと出る感覚がよくわかりました。

これがおまけみたいなものでしたけど、いちばんいやでしたね。意識があるときに体に針が入る感覚を感じるというのは、いやなものだなとつくづく思いました。それが入院中のいちばんしんどかった体験です。」