がんと向き合う

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田中美智子 さん
(たなか・みちこ)
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1922年生まれ。元日本福祉大学助教授、衆議院議員5期15年。27歳のとき結核で3年間療養、右肺切除。51歳のとき乳がんが見つかり右乳房切除。81歳(2006年)のとき大腸がんが見つかりS状結腸がん切除、ストーマ(人工肛門)を造設、抗がん剤投与のため3ヵ月入院。83歳よりブログ「自然と猫と私」を始める。著書に『まだ生きている』(2009年)ほか多数。
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5老人福祉

「国とか自治体の人たちが、人間の尊厳というものをどこまで高く見るか。老いて役に立たなくなったものは死ねという考え方もあるしさ、人間はどんなになっても、痴呆になって何もわからなくなっても、人間としての尊厳はあるんだと、それは犯してはいけないというのは、それはものの考え方によるわけですからね。」

●人の温かさを感じるとき

「(この地域では以前)65歳以上の独居老人には、牛乳を朝1本くれたの。牛乳といっても90円のを1本ね。たいした値段じゃないけれども、朝、牛乳を誰かが置いていってくれている、誰かが私を見てくれているという感じが、90円の物をもらったというのではなくて、人の温かさというものが感じられるのね。そういうふうに市も見てくれているし、持って来る人もアルバイトにしても、『ここはひとり暮らしの婆さんだから、村から牛乳が1本出ているんだ』というのを知っていて。そうすると、やっぱりつながっているという感じがするんだね。それが合併して市になった途端にぱっと牛乳を切られちゃった。だから今は自分でとっているけどね。

だから、生活の質は落としていないけれども、そういうところでの社会の老人に対する福祉というのはどうなのかな。ヘルパーさんが介護保険で来てくれているから、これには多少、国も金を出しているから国の世話になっていると言えるけれど、それ以外に老人に対して国からは何もないね。だから老人福祉というのはあるのかなと思う。歩けなくなったら車椅子を安く売ってくれるとか、そういうのはあるだろうと思うけど、今の私にとっては、本当に88歳で足もヨタヨタしているのが、必死で動けなくならないように毎日一所懸命散歩して、努力して頑張っているのに対して、何か助けてやろうというようなのはまったくない。だから老人福祉というのは、私にとっては今はゼロだね。

だから90歳までは、自分のことは自分でできるように努力をすると。それ以上は、努力はしても、もう老いというものが必ずあって、努力をすれば200年も300年も生きるわけじゃないのだから。人間の寿命はだいたい人生50年と言っていたのが、今は人生80年と言っているのね。だから80歳を過ぎたら、私はそういう責任は公的なものにあると思う。少なくとも90歳過ぎて国が何もしないというのは・・・。しているとしたら、介護保険は掛けているわけでしょ、私がね。介護保険でヘルパーさんが来るわけだけど、介護保険というのは30%か40%は国が補助金を出しているわけですね。

私は年齢が高いから介護保険がたくさん出るということで、家政婦さんに来てもらっているけど、週に4日来てもらっているから、相当お金がかかるのね。介護保険は掛け金がちょっと高いけど、1年に1度、健康保険と介護保険で三十何万かを払ってしまえばもうあとはいい。だけど家政婦さんは1日1日だから。年金をそれにほとんど使って、その残りで生活するわけです。

でもフランスやドイツなんか、ヨーロッパの国はそういう公的な機関が最後はもうほとんど全部見てくれるからね。日本と同じくらいの国力がある国ができていることを、どうして日本ができないのかと。私なんか介護保険でヘルパーさんが来る以外は、全部人を頼んでいるんですよ。できるだけ生きている間は、スローになっても今までと同じように東京にも行き、ピアノもレッスンを受け、パソコンでブログを書いて、なるべく快適に、掃除洗濯は自分でしない。ご飯だけは助けてもらいながら自分も少しはするということで、掃除洗濯はいっさいしないで、全部人に頼んでやってもらっているのね。

日本はなんでも申請主義ですからね。申請しなければ年金だって出ないのだから。だから知らないで申請しているもの、しないものがあるかもしれないのよ。それを探すということがだんだんもう体力的にも面倒くさくなる。それは福祉関係の人にちゃんと『あなたはこういうことがあるんですよ』と教えてもらえば、申請するけど。」