がんと向き合う

大腸がん 小腸がん 肺がん 膵臓がん 乳がん 子宮頸がん 卵巣がん 緩和ケア +plus イベント おしらせ
川村正司 さん
(かわむら・まさし)
chart
岩手県盛岡市出身。2000年(52歳)に直腸がんが見つかる。経営していた会社を1ヵ月で引き継ぎ、直腸がん(ステージ2)切除術を受け人工肛門を造設。術後は不安な気持ちが常にあったが、日本オストミー協会を通じて多くの仲間と知り合うことで人生観が変わり、全国のオストメイト(人工肛門・人工膀胱保有者)のQOL向上をめざして活動を開始。ブログ「オストミー・カフェ」。趣味はお祭りでのお神輿担ぎ(盛岡八幡宮南會)。
movieImage
7病気になって気がついたこと

「病気になってオストメイトになって、52年間生きてきた世界と違う世界の人とはじめて付き合って、それまでの範囲よりもここ12年間生きてきた範囲のほうが倍以上広いという。今までは友達100人の世界だったのが、がんになってこういう体になって100人が1000人になっちゃった。これは誰がこういうふうにしてくれたんだろう。『お前はこういう病気になってこういうことになって、これをやりなさい』と誰かに言われているような気がする。だからこういうステージを与えられたことに関しては、ある意味感謝していますね。何か生きている証をもらった、『これを大事にしろ』『何か足跡を残せ』『できることがまだあるから、自分のできる範囲でやったら?』と自分の中で誰かが言っているというのは、オストメイトになってからひしひしと感じてくる。貴重な体験をさせてもらっています。12年前のままであれば、こういう体験は絶対にないと思う。そういう部分はよかったなと思っています。」

●一緒に話し合える場所を

「非常に悩んでいらっしゃるオストメイトの方がたくさんいることは事実です。それから若い方々もインターネットの病気の情報だけで満足している人もいる。やはり必要なのは、肉声で話し合ってみんな一歩ずつ解決すること、一緒に話し合える場所です。病気で立ち上がれなくて困っている人も、インターネットの情報を頼りにとっている人たちも一緒に同じところで話をすることによって、何か新しい社会が生まれてくる。

オストミー協会に入っても入らなくてもいいのですが、そういう会話のできる場所をみなさんで作っていく。協会本部と医療と行政とがまず進む方向を話し合いながら、いろんなことを周りに通達しながら網の目のように仲間を増やして。それも大きな解決のひとつで、落ち着いた社会を送れると思います。

Q.川村さんは「オストミー・カフェ」というブログを発信していらっしゃいますね?

「まず一方的に情報を流して流して、ちょっとと思った人がちょっと(コメントを)書いてくれればいい。来やすい状態を作るというか、普段着のブログというか。私自身もそこまでまだなりきってないんで、もっともっと普段着にならなくちゃいけないなと思っていますけどね。」

Q.日本オストミー協会に入る必要はないのでしょうか?

「私自身も勧めないというか、協会に入らなくても話ができる場所があればいいんじゃないですか。協会に入ることによってはめられてしまうと思っている人がたくさんいらっしゃるから。だからこっちは、何をしているのか、何を提供して何をやろうとしているのかをただ発信すればいい。広く発信していくうちに『あ、そうか』と理解した方が来てくれる。それが本当じゃないかな。」

●困った現実をひとつ変えるだけでもいい

「この前どなたかに『日本のオストメイトは幸せだよね』と言われました。そうでしょうね、こんなに整っているんですから。ヨーロッパにはオストメイト対応トイレというのがないと聞きました。装具も『このぐらい社会保障でやっていただいている国も少ないでしょう』と言われていました。だから日本はオストメイトにとっては過ごしやすいよい国だと思います。

それでも皆さんにわかってほしいのは、オストメイトがいるということ。陰に隠れて、表に出られなくて困っている人がいる、出たいと思っても出られない人がいる、そういう人が表に出られるような、一般の人と同じような環境の中で生活できる状態(が理想です)。なかなか難しいと思いますけど、それはひとつひとつの積み重ねで、今回の3・11が起きて浮上した問題をひとつひとつ丁寧に解決していくことで、また理想に近づいていく。それは今、被災地にいる人間がやらなくてはならない仕事です。困った現実を1個変えるだけでもいいと思います。それが夢ですね。」