がんと向き合う

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河崎睦美 さん
(かわさき・むつみ)
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1962年長崎県生まれ。3〜4年ほど痔の症状があり、48歳(2010年)のとき思い切って肛門科を受診、直腸に絨毛(じゅうもう)腺腫が見つかる。病理検査で悪性と診断され、直腸を切除、人工肛門を造設する。手術から約1ヵ月半後に保育士の仕事に復帰。自分が内部障害者となり、保育園の障害者・家族の気持ちにより寄り添えるようになる。万歩計をつけて散歩するのが楽しみ。コーラス歴17年。
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8がんばらない、でもあきらめない

「鎌田實さんの『がんばらない』シリーズ は結構好きで、前からずっと読んでいました。また読み返して『あぁ、そうだよな』と思います。がんばりすぎてもいけない。がむしゃらにがんばると、またそれがストレスになる。さっきの食べ物の話でも、『これはいけない』とか『あれはだめ』とあまり考えすぎると、かえってストレスになる。

食生活は本当に気をつけていたつもりなので、いちばん食べ物と直結していそうながんになるというのはショックだったし、うちの母にしても自然食に凝ったりしていた人なんですね。それなのにがんで66歳で亡くなったこともショックだったし。本当にがんばりすぎない、でもあきらめない、生きるんだよというか。

本当に楽天的な性格なので、ケセラセラで『なるようにしかならないよね』と思う。今までの人生も全部自分が選んできてここまで来ているわけで、病院に行かなかったことも自分が選んだ結果がこうなのだから、これはきっと神様が何かそういうふうにしたのかな・・・。多分私がそれを乗り越えられるから与えられたのかなと思います。」

●世界が広がって

「実際、世界がすごく広がって、障害のある人に対する気持ちも変わったり、見えなかったものが見えてきたり、ブーケの会でいろんな人に出会って、世の中にはこんなにたいへんな人がいっぱいいるんだ、それを自分は今まで全然知らなかったし、世の中の人はもっと知らないんだなと思いました。そういう世界があると知れたことは自分にとってプラスだし、ラッキーだったのかなと思います。自分が自分であるためには、今の自分を丸ごと受け止めて先に進んでいくしかない。『これが自分なのだから仕方ないじゃん』と思います。

でも命を生かされた、助けてもらったということは、何か意味があるのだろうと思って、それは何だろうというのはずっと考えていて、探していかなければいけないと思っています。その答えはなかなかすぐには見つからないですけど、何かきっと私がここにいる意味があるんだろうなと思います。」

Q.誰に「生かされた」という感じなのでしょうか?

「先生じゃないですね。何か見えない力というか。先生はなんだろう、技術的に生かしてくれたというか。見えない何かがあるのかな、まだ私がこの世にいてやることがあるんだよという何かがあるのかな。まだここにいなさいということなのかなと思いますね。」

●心は元気でいよう

「さだまさしが好きで、結構いろんな言葉に影響されています。最近よく『お年寄りは偉い』と言うのです。なんで偉いかと言うと『お年寄りと言われるまで生き延びたというだけで偉い』ということで、『あぁ、そうだよね』と。自分が病気して本当にそれをすごく思いました。病気もせずに元気に年寄りになれるということは、本当にすごいことだよなと思いました。

あとコンサートの最後に『元気でね。“元気で”というのは、体は病気かもしれないけど心が元気ならいいんだよ。心まで病気になっちゃだめだよ』と言うのです。それが本当にそうだよなと。私はこういう病気になったかもしれないけど、心は元気。それは自分の気の持ちようじゃないですか。心まで病気になっちゃうと負けちゃうけど、私も『心は元気でいよう』って思います。元気でいたらまたさださんのコンサートに行けるかもしれないし、また楽しいことがあるかもしれないと思うと、『あ、元気でいよう』と。だから『心までがんに侵されるものか』というか、『私の心は私のものだから、心は元気でいよう』と思います。」

●がんは悪い病気じゃない

「母が今から13年前に亡くなったのですけど、腎臓がんで2〜3年闘病して亡くなりました。でも再発とか転移とかして、余命宣告を万が一されたとしても、時間はあるじゃないですか。その間にいろんな準備はできますよね。そう思うと、準備ができる分、がんはそんなに悪い病気じゃないかな、もしかしたらその間にいろんな特効薬もできるかもしれないですし。そういう意味では付き合っていくしかないかな、本当に悪くならないようにして。

両親はふたりともがんで亡くなりましたが、意識はすごくはっきりしていて私たちのこともわかったし会話もできたから、がんという病気は悪くない、不幸じゃないと思いました。こちらも余命を言われたときにそれなりの覚悟はできるので、亡くなるということはすごく悲しいし喪失感もあるけど、『お母さんがんばったし、お父さんもがんばったよね』と思えるし、そういう意味では『よかった』とは言えないけど、幸せな別れ方だったかなとは思います。

母親はこん睡状態になる前にずっと歌を歌っていたんです。『みかんの花咲く丘』とか童謡を歌っていて、『お母さん寝ようよ』と言ったら、『そうだね』と言って寝て、それでこん睡状態になって、そのまま次の日に亡くなりました。だから取り乱したり、わけがわからなくなったりということがなかったので、私の中では母親は母として、父親は父として残っている。それはほんとに幸せだなと思います。」

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※ 鎌田實・著『がんばらない』シリーズ : 
   『がんばらない』、『あきらめない』、『それでもやっぱりがんばらない』(集英社)ほか。