がんと向き合う

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東 千佳子 さん
(あずま・ちかこ)
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1970年滋賀県生まれ。2001年よりオーストラリアに住み、永住権を取得し仕事も順調だった。2010年、腹痛より大腸がん(ステージ4)が見つかる。術後、感情を失い、専門家のカウンセリングを週2回受け、次第に落ち着く。1ヵ月後日本に帰国し、実家から通院。家族、友人、患者会のサポートもあり徐々に自分を取り戻す。2012年にiPad2を購入、日記をつけ始める。6月から文鳥を飼う予定。
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3放心状態

「健康だと思っていたのが、いきなり『あなたはがんで、末期です』と言われると、頭ひっくり返りますよね。もう転移しているので、ステージ4です。

ステージ4で『治療をしても数ヵ月(の命)』と言われました。今はもう1年半経っているので、こうやって笑って言えるのですが、そのとき私は40歳で、いきなり『末期がんです』と言われて衝撃でした。非常にショックで放心状態になってしまったんです。夜は眠れないし、不眠にもなって、不安要素があまりにも多くて、衝撃も多くて、結局1週間ぐらい自分でも感情がなくなっちゃったんです。

入院して私はベッドに座っているのだけど、自分の感情がないんです。友達がお見舞いに来てくれて、周りで泣いているのですが、私は感情がないから、自分は部屋の隅っこにいて上から見ている感じなんです。そのとき(ベッドにいる)自分は『壊れたお人形』で、完璧に壊れちゃっていて、感情がない状態でそこに座っている。周りで友達が泣いている、それを上で見ている自分がいる。すごく不思議な1週間でした。

感情がないのは、自分で『まずい』と思ったんですね。それで看護師さんに言って、ソーシャルワーカーに連絡をとって、精神腫瘍科の先生にも診てもらうことになりました。それから『オーストラリアがん評議会』にも連絡をとって、精神的なサポートをお願いするようにしたのは、その1週間後です。それまではもう放心状態でした。

悲しくもないし、自分のことと思えなかったんです。自分の精神を守るために、たぶん(体を)離れちゃったんでしょうね、ショックが大きすぎたから。ただ怒りの感情はあったのを覚えています。怒るという感情はあるけど、嬉しくもないし別に悲しくもない。周りがみんな悲しそうな顔をしているのを見ていて、『本当に自分に起こっているの?』というのが本音でした。」

Q.怒りの感情とは?

「たとえば友達がお見舞いに来てくれて、『頑張って』って言いますよね。そうしたら怒っちゃうんですよ。そういう怒りがありましたね。

英語で“Stay positive!(前向きに)”とか、“Be strong!(もっと強く自分をもたなきゃ)”と言われると、『どうやって前向きになれっていうの、この状況で』と思ってしまうので、それがしんどかったですね。

今思えばすごくありがたかったんですけど、やっぱりはじめは受け入れられないです。正直なところ、がんをやっている人に、がんをやっていない人が『頑張って』と言うのはやめたほうがいいですね。友達はすごく親身になって、自分が経験したわけじゃないから『頑張れ』と言ってくれるのだけど、結構つらいです。『この状態でどうやって頑張ればいいの?』というのがあります。」

Q.友達には、何と言ってほしかったですか?

「聞いてくれるだけでよかったです。私が『しんどい』と言ったら『しんどいよね・・・。たいへんだよね・・・』と言ってくれるのがいちばんありがたかった。

入院中にありがたかったのは、看護師さんから言われた言葉でした。私はストーマになったことも結構ショックで、すごく不機嫌だったんです。そうしたら男性の看護師さんがやって来て、『うん、そりゃびっくりするよね。だって朝起きたら、本当だったら下に出るものが袋に入ってお腹に乗っているんだから、そりゃびっくりするよ』と言われて。『ああ、私って普通なんだ。びっくりして当たり前なんだ』と思って。そう言ってくれたほうが『そうそうそう』と思えるので。それを『そんなこと大丈夫。ストーマなんていっぱいいるし』とか言われたら、逆に私、怒っていたと思うんですよ。だから『そんな、たいへんだよね』と言ってうなずいてくれたほうが楽ですね。

あと精神腫瘍科の先生に私、言ったんです。『友達から“頑張って”“前向きに”と言われると頭に来るんです』と言ったら、『そんなの当たり前。“もう黙ってて!”と言ってやればいいわよ』と言ってくれたので、すごく気が楽になった。

私はやはり罪悪感があったんです。友達が『頑張れ!』と言ってくれるのに、『もう、うるさい』とか『なんでそんなこと言うの』と思ってしまう自分に対して罪悪感があって、でもそれを『当たり前の反応よ』と言ってくれたのが、すごくありがたかったです。」

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