がんと向き合う

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武田 文和さん
武田 文和さん
(たけだ・ふみかず)
埼玉医科大学
客員教授
1957年群馬大学医学部卒業。日本でがん疼痛治療を推進した第一人者。WHO専門家諮問部委員。世界約25ヵ国の専門家が4年間審議し1986年に発表した『WHO方式がん疼痛治療法』の作成メンバーのひとり。1998年埼玉県立がんセンター総長を定年退職。2000年に日本麻酔学会社会賞、2007年瑞寶小綬賞を受賞。 訳書に『がんの痛みからの解放』、著書に『やさしいがんの痛みの自己管理』ほか多数。ブログ:「がんの痛みの治療」
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3治療のコツ

写真:がんの痛みからの解放

「WHO方式がん疼痛治療法は、誰もがスッとわかることを前提に作ってありますから、何か特殊なコツや才能が要るということは一切ありません。WHO方式治療法を公表した単行本はたった80ページの本で、そのうちの40ページが治療法の具体的な説明にあてられています(右写真)。この本1冊をきちんと読んで理解すれば、どの医師にもがん患者の痛みの治療がきちんとできるはずです。この本に書いてあることをきちんと理解することがコツでしょう。

もしうまくいかないとすると、何か自己流の解釈をしている部分があるのだろうと思います。モルヒネを使うようにと指示していますが、モルヒネは効くような量で使わないと効きません。例がよくないかもしれませんが、お酒で言えば、少しでも飲めば全員が酔うわけではなく、ある程度の量を飲まなければ、酔うことにはならないですね。それと同じで、モルヒネもごく少量では期待通りには効いてはくれず、その患者さんの痛みがとれる量まで増やして飲んでこそ効くようになるのです。その『個人の適量まで増やすこと』というのはWHO方式治療法の原則の中に入っています。

このような原則をきちんと守れば、10人痛がっている人のうち8〜9人の痛みは消えます。そして残りの人たちの痛みは大幅に軽くなります。すっかり消えない少数の痛みはいろいろな理由があってすっかり消えないのですが、その場合には薬による治療法と、薬以外の治療法を組み合わせるなどして治療することもWHO方式治療法は指示しています。」

●痛みをこじらせてしまった場合

「痛みそのものに対する医療用麻薬の効果は、こじらせてしまった痛みの場合でも同じです。痛みが長く続いていると、その人の心にまで悪影響を及ぼしてしまいますので、医療側にとっては心の問題に対応するなどいろんな手間がかかり、患者さんの痛みがすっかり消えるまで時間がかかるということはありますが、そうした配慮のもとでなら薬はちゃんと効きます。痛みの治療も、早期治療が必要で、早期に開始すれば、手間がかからずによい成果が得られます。」

●薬が効かない場合とは

「なかなか効かないことは病院ではよくあり、2つ理由があります。1つは、強い痛みなのにその痛みの強さにふさわしくない、効力の弱い薬を使っている場合には、これは効きません。もう1つは、効く薬を使っているけれど、増やすことをためらって少量しか使わないと、副作用だけが起きて痛みの作用がないということがありえます。モルヒネという薬はそういう薬です。ある程度の量を使ってはじめて痛み止めの効果が出てくるので、その50分の1ぐらいの量をもし使うと、痛みには効かなくて、便秘にだけなったり、吐き気だけを起こしたりということがありえるような薬です。

それから、患者さんは(痛みがあるのに)がまんして『もう大分いいです』とは言わないこと。痛みが軽くなってきてもまだ残っていたら、その痛みは必ずとれますから、『まだ半分痛いんです』『まだ3分の1痛いんです』と、痛みがすっかり消えるまで言うこと。それを日本の患者さんはわりあいしません。そうするとお医者さんには、まだ痛みが残っているというのが伝わりません。 」