統合失調症と向き合う

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岡崎 祐士さん
岡崎 祐士さん
(おかざき・ゆうじ)
都立松沢病院 院長
1943年熊本県生まれ。東京大学医学部卒業。長崎大学助教授、三重大学教授などを経て、現在、精神科病院ながら内科・外科等の諸科を有する東京都立松沢病院院長として精神科医療に従事。日本統合失調症学会理事長、日本精神神経学会理事なども務めている。
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2統合失調症の治療方法

「現在は、抗精神病薬と言いますけども、薬物療法が、まず平均的、標準的治療として用いられますけども、それで十分という意味ではなくて、お一人お一人病状や病気になられた経過も違いますし、人柄も含めまして個性がありますので、お一人お一人に合った治療計画が必要ですね。それは広い意味での精神療法と言いますか、現在では主たるものは認知行動療法という、ご自分が今置かれている、陥っている状態についての見方、あるいは解釈の仕方にちょっと偏りがあるので、その偏りがあるということを知っていただいて、それを修正することでずいぶん楽になるんですね。そういった精神療法と合わせて行わないとやはり薬物療法の効果自体も十分に発揮されないんですね。ですから、必ず精神療法、認知行動療法、あるいは広く心理社会的治療と言いますけど、それと薬物療法を組み合わせて、あるいは統合して行うことが主流ですね。」

薬物療法のポイント1 薬はなるべく1種類で

「日本の統合失調症に限らず精神科医療の問題点の1つとしてよく指摘されるんですけども、何種類もの薬を組み合わせて使用するという傾向はどうも日本では多いというのは事実ですね。しだいに今は単剤でというか、なるべく1種類、多くてももう一つどうしても必要なものを1種類組み合わせで行うという方向に変わってきつつありますけれども、まだ多剤で結果として量が多くなりすぎるという多剤大量というふうに言われますが、そういった薬物の使用の仕方がまだ残っておりますよね。克服しなくてはいけない課題ですけれども。」

薬物療法のポイント2 本人も家族も積極的に治療に参加して

「統合失調症の薬物による治療は、徐々に進歩しています。副作用の点で言いますと、30年前に使われた薬と現在の薬ではかなりの違いがありまして、はじめてお薬を飲んだ方が体験される副作用の症状の程度は、かなり軽くなっています。しかしもちろんどんな薬も副作用がありますので、それは医師、あるいは看護師、担当する治療のスタッフはきちんと説明するようにしています。で、説明しない場合には、どういう副作用があるか、しかもそれがいつ頃出やすいかということも説明いたしますので、ぜひ聞いていただきたい。で、それは必ず解決する副作用なんですね。そういうことに注意しながら治療がされるように現代ではなりつつあります。100%ではまだないと思いますけども。薬を少量からまず使って、副作用がないかどうかを確かめながら徐々に必要な量に増やしていくというふうに通常行いますので、ご本人の薬を飲んだときの体験というのは、非常に薬物の効果にも関係があるということで今重視していますので、それをぜひ報告していただくことが大事ですね。そうしながら疑問や不安がないような形で薬を徐々に使っていくように心がけるようにしていますので、ぜひそういう点でご本人やご家族も薬物治療自体にもご参加いただくことが大事だと思いますね。」

●精神科医療の歴史

「統合失調症の治療は、日本の精神科医療の歴史とともにあったと言ってもいいと思うんですね。戦前は残念ながら医療、精神科医療施設が少なすぎたために、精神病者監護法で座敷牢を作ることが強制されて、その中に閉じこめられたということがございました。戦後は、その反省から精神科の病院をどんどん作るということが奨励されました。なによりも長期の入院が増えたんですね。それで、なかなか元の社会生活に戻れない、ご家族もそういう患者さんがいない生活に慣れてしまった、あるいはご家族がもういらっしゃらなくなってしまったということもあって、精神科病院で長い人生の大半、非常に長い期間を過ごすという方も増えてしまったということはありました。」

*精神病者監護法が1900年(明治33年3月公布)7月施行、1919年(大正8年3月)都道府県に精神病院の設置を求める精神病院法が施行された。1950年(昭和25年)5月、適切な医療・保護の機会の提供のため、精神病者監護法と精神病院法を廃止して、精神衛生法が制定された。

●入院せずに治療する方向へ

「国もそれではいけないということで、入院している方の人権を尊重し、それからなにしろ入院中心の医療から地域で生活しながら治療を受ける地域移行ということを、主たる課題としてこの間ずっとやってきました。なかなかそれが予定通りには進んでいないことも事実です。しかし精神科医療関係者の中ではぜったいにそうしなければいけないという合意ができてきていますし、いろんな施策をしようと徐々に充実をしてきています。早期に治療をすれば治りがいい、しかも入院せざるえないような生活の障害も軽くなりそうだということで、早期に、しかもその治療は入院ではなくてこちらから訪問して治療をするという、アウトリーチと言いますけど、そういう診療形態も含めまして、多くの統合失調症の方が入院をしないで生活を継続しながら医療を受けることができるという見通しが出て参りました。で、経済的には非常に困難で、医療費を減らすべきという意見もあるようですけども、この動向というのは結果として、医療の質も改善する可能性があるけれども、医療費も節約できる可能性も出てきましたので、導入される可能性が高い有望な医療の方法だと思いますね。」

●本人に説明することの重要性

「従来はご存知のように、偏見もありまして、それが私共の中にも反映していたんだと思いますけど、ご家族も、できたらご本人に話さないで欲しいということもあったかと思いますが、病名を伝えないままに治療をしていたという、非常に矛盾した状況があったわけですね。この病気は残念ながら時間はかかりますよね、克服していくには。やっぱりどういう性質の病気であるのか、告知するという表現は嫌いですけど、病名を含めて説明して、どういう病気ですから、あなたご自身もこういう努力をしていただく必要があるし、あるいはこういうふうに考えていただく必要がある、それから薬というのはこういう点で役立つし、しかし薬だけでは駄目で、私共のカウンセリングをしたりということも必要なんですと。それからご家族はこういうふうに見て、こういうふうな点からご本人をサポートしてあげてくださいとか、専門家として私共はこういったことはできますということをお話して、一緒にやっていくわけですね。その主体は、やっぱり病気にかかってしまった患者さんご自身ですから、ご本人がどういうふうな問題に対してどういうふうに闘っていくかということをご説明しないといけないと思います。」

●医療者として心がけていること

「やっぱり体験していらっしゃる方は非常に辛いし、深刻なわけですよね。僕らがその気持ちまで全部わかっているかというと残念ながらわかりませんね。私共は、辛い経験をしているご本人の外にいるわけですので、全部はわからないからそれは率直に申しあげて、それはご本人からお話していただくように努力するしかないと思います。ご家族も同じ立場におられますので、まず僕たちが、わかったように振る舞うと、これはご本人にとっては、辛い思いをさせてしまったり、あるいは嫌な思いもさせる可能性がありますので、限界をわきまえた上で、わかる努力をして、専門家としての援助をするというように心がけることが大事かなというふうに思います。」

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