統合失調症と向き合う

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笠井 清登さん
笠井 清登さん
(かさい・きよと)
東京大学大学院医学系研究科精神医学分野 教授
1995年に東京大学医学部附属病院精神神経科で研修開始、2008年6月現職に就く。神経画像・臨床生理学的手法を用いて、統合失調症、自閉症、心的外傷後ストレス性障害などの脳病態解明で成果を上げてきた。統合失調症の早期リハビリテーション(デイホスピタル)の分野にも力を入れてきている。
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4より根本的な治療ができるために
●早く治療に乗る

「より根本的な治療ができるには、薬物療法と心理社会的な療法、両方とも進めなきゃいけないですけども、やはり早く見い出せて、早く治療に乗ることが、まず一番大事で、治療法の分子機序とかよりも、そちらの効果のほうが圧倒的に大きいと思うので、それが優先されるべきでしょうね。そうすると、やはりやらなければいけないのは、偏見とかスティグマを社会から除く努力というのは、いろんな方面で、我々精神科医だけでではとてもできませんけど、当事者の方やご家族の方も含めてやっていかなきゃいけないことで、そういうことがまず必要です。

それから、はじめて統合失調症になりかけている、すごく辛い方が医療機関に来られたときの印象みたいなものも大変重要だということが知られています。イギリスでは、若いときにはじめて医療機関を訪れたときの印象が悪いために、その後病院に行かなくなってしまった患者さんの親御さんが、こういう問題があるので最初のときの印象を良くするのはすごく大事ですというような運動をされたりしているんですね。最初に訪れるところが、旧来の日本の長期入院しているような精神病院とかだけが窓口ですと、なかなか難しいので、精神保健センターとかクリニックとかの整備がすごく重要だというふうに思います。

それから学校保健でも、もっと精神疾患についてわかっているスクールカウンセラーの養成も必要だと思いますし、学校の先生や生徒さん自身も精神疾患のことを知るべきです。例えば、イギリスやオーストラリアの例ばかり示していますが、オーストラリアでは、スクールマターズ(mind matters)と言って、学校の生徒さんが精神疾患について知る教科書がちゃんとあるんですね。そういうのが取り入れられています。ところがこのようなことを言って良いかどうか分かりませんが、まだ日本では指導要領に精神疾患の教育というのは入っておりません。学校教育で精神疾患について正しい知識を得るというのが大事で、そうすると、ご自分がそういう症状が出て困ったときに早く受診することにつながると思います。」

●分子機序を解明する

「薬物療法的な根本的な治療という意味で言うと、他の内科あるいはアルツハイマー型認知症とか、そういう体の病気あるいは神経の病気で根本的な治療法ができつつあることにならって、やはり統合失調症の治療法の解明においても、分子機序の解明の研究も必ず重要です。

日本ではそういう研究がまだ進んでいないのですけれど、海外ではかなり進んできていまして、モデル動物と言って、人間でいう統合失調症の症状に少し似た、認知機能障害とかそういうものをもつモデル動物を作成して、いろいろな分子を少しいじります。そういう研究は、ヒトでは倫理的に行ってはいけませんので、ネズミを使ってやるわけですよね。で、そういうモデル動物に対してどういう薬物が、そのモデル動物の障害に有効なのかを調べることによって、より根本的な、統合失調症のお病気になられてから比較的間もない頃のお病気のプロセスをブロックしたり、あるいは再発を繰り返しているうちに治りにくくなってくるところの生地(きじ)をブロックするような、そういう治療法の開発が重要で、いろんな国でそれが進められているというふうに認識しています。」

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