統合失調症と向き合う

体験者の声 医療者・支援者の声 家族の声 私たちの活動紹介 イベント おしらせ
笠井 清登さん
笠井 清登さん
(かさい・きよと)
東京大学大学院医学系研究科精神医学分野 教授
1995年に東京大学医学部附属病院精神神経科で研修開始、2008年6月現職に就く。神経画像・臨床生理学的手法を用いて、統合失調症、自閉症、心的外傷後ストレス性障害などの脳病態解明で成果を上げてきた。統合失調症の早期リハビリテーション(デイホスピタル)の分野にも力を入れてきている。
movieImage
<<  1  2  3  4  5  6  7  8  >>
8今後の展望
●統合失調症への見方を変えていきたい

「昔ですね、東京大学の教授だった呉秀三(くれしゅうぞう)先生という方が、明治時代だったと思うのですけども、非常に切ない名言を残しておられまして。この病をもつ方というのは、この病をもつだけで悲観的なイメージがあったので不幸だ。それと共に日本に生まれたことの不幸を負っている、二重の不幸を負っているというふうに表現したんですね。昔の方なのでもうちょっと文語体でおっしゃっているんですけども。要は、お病気になった不幸自体は、今僕が言ったようにだいぶ見通しが明るくなってきている。で、もう一つの不幸である、この国、日本で、統合失調症に対する偏見、精神疾患に対する偏見があるという二重の不幸というのは、ま、他の国でも精神疾患というのは本質的に社会から偏見を受けるものなんですけども、どんどんアンチスティグマ・キャンペーンが行われていて改善してきました。

日本でも、ぜひ偏見を取り除くことが大事なので、それは医療従事者とまた当事者・家族の方と歩調を合わせてそういうことに取り組んでいく必要があるというふうに思います。それによって、最終的には、やはり政策、政府の方にもご理解いただくことが重要です。それによって統合失調症の方に対するいろいろな対応とか、設備的なものとか、あるいはもうちょっと研究費に至るまで、社会あるいは国が、精神疾患に対する見方を変えて、もっと対策に取り組んでいかなきゃいけなくて。

欧米諸国では、精神疾患は三大国民病と言われていて、がんと生活習慣病と精神疾患なんですね。ところが、我が国ではがんと生活習慣病は二大疾患なんですけども、精神疾患は、三大国民病になっていない状態ですね。でも精神疾患というものに対する、いろんな社会的な損失あるいはその方がお病気になられて社会で働けない経済的な損失とかを計算すると、三大国民病と言って過言ではない、対策が大変重要な疾患なんですね。」

●品格のある取り組みをしていきたい

「僕が本当一番に言いたいのは、繰り返しですけど、社会における精神疾患に対する認識が正しい方向に変わるのが、一番大きいということです。そのためには運動が必要なんですが、運動っていうのは、やっぱり品格のある運動じゃなきゃいけなくて、本当にそういうのを一つ一つ静かに行っていくのが大事だと思っています。いわゆる政治運動とかではなくて、僕のように大学病院にいる者であれば、治療法の開発のための研究をコツコツと行ったり、あるいは教育機関なので、精神疾患の改善に真摯に取り組む医療従事者を育て、また目標、高い目標ですね、精神疾患の予後は悪いものではなくて、適切に対処すれば非常にいい予後があり得て改善していくものだと、だからそのために自分たちの置かれている立場でできることをやっていこうっていう意識を共有する、そういう若手の精神科医やコ・メディカルスタッフを育てて、意識を共有するというのが、例えば僕のできる一番静かなるコツコツ運動だと思うので、そういうことをやっていきたいと思いますけどね。」

呉秀三(くれしゅうぞう):1901〜1925年まで東京帝国大学医科大学教授として神経病学講座を担任。わが国の精神病院医療の確立のために基礎的な貢献をした。早くから患者の人道的待遇を主張し、無拘束看護、作業療法、教育治療、看護者の養成教育、精神病院の構造の改善などに尽力した。樫田五郎との共著『精神病者私宅監置ノ実況及ビ其統計的観察』(1918年)で、座敷牢に暮らす精神病者の生活状況を描き出し、私宅監置制度を批判して公立精神病院の設置を訴えた。この論文にある「我邦十何万の精神病者は実に此病を受けたるの不幸の外に、此邦に生れたるの不幸を重ぬるものと云ふべし」というフレーズが各所で繰り返し引用されている。
<<  1  2  3  4  5  6  7  8  >>