統合失調症と向き合う

体験者の声 医療者・支援者の声 家族の声 私たちの活動紹介 イベント おしらせ
浅井久栄さん
浅井 久栄さん
(あさい・ひさえ)
看護師、精神保健福祉士
東京大学医学部附属看護学校卒業、昭和45年(1970年)に東京大学医学部附属病院精神神経科に看護師として就職。昭和49年(1974年)に、東大精神科デイホスピタル(東大デイホスピタル)というデイケア部門の立ち上げに関わり、同デイホスピタルで35年間、精神障害者のリハビリテーションに携わってきた。2009年5月に定年退職し、6月からグループホーム「NPO法人 ホームいちょう」(理事)に非常勤で勤務し、精神障害者の作業所「本郷の森」の理事も務めている。
movieImage
<<  1  2  3  4  5  6  7  8  9  >>
6統合失調症の方との関わり
●患者さんの印象

「私は、患者さんと一緒にいるときが、自分自身の精神状態が一番良くなるときなんですね。ほんとに心優しくって、正直者で、何事にも一生懸命に取り組む人たちで、一方ですごく不器用で、手抜きができなくって、とっても傷つきやすかったりとか、疲れ果ててしまったりとか、そういう方たちなのでとても人間らしい人たちだなっていうふうにいつも思っていて、大好きです。

私はどんなにたいへんなときとか辛いときでも、そういうときこそ、みんなと一緒に過ごすようにしているんですね。で、私がなんか元気がなかったり調子が悪かったりするときに、一番それを早く察知してくれるのは、患者さんたちなんですよ。『浅井さんどうしたの』、『元気ないよね』って声をかけてくれたりします。その一方で私のことを一番大切にしてくれて、評価してくれるのも患者さんたちです。」

●心に残る患者さん

「デイケアで受け入れた患者さんは550人以上の患者さんたちで、ほんとにたくさんの方々のエピソードがもちろん浮かんでくるわけですけれども。30年以上おつきあいしている患者さんもいます。結婚されて、うまくいかなくて離婚されて、就職してそこがだめで今度は作業所に通ったりとか、そういう生活にずうっと寄り添ってきている人もいます。患者さんよりもむしろご家族の方とすごく仲良くなっていて、それでご家族の支援をしている方もいますし。

私が一番やっぱりうれしいのは、DH(デイホスピタル)に通い始めたときにはほんとに元気がなくって、ほとんど会話もできなくって壁のほうを向いてじっと座っているような形で入ってこられた人たちが、ほんとに活発にいろんな活動をして元気におしゃべりをして、それで就労していったりとか就学していったりとか、そういうメンバーの姿を見ることがやっぱり私の仕事をずっと支えてくれていたというふうに思っています。

最近、とってもはっと気づかされたことは、最近就職していったメンバーがこんなことを言ったんですね。障害者が働きやすい職場っていうのは、健常者にとっても働きやすい職場のはずなんですっていうことを言われたときに、私は、ああ、とっても大事なことに気づかされたなっていうふうに思いました。今の社会って、やっぱり私たち健常者にとっても働きにくい社会になってきているように思うんですね。なので、精神障害者でも障害をもっている人たちが当たり前に健常者の中で働けるような社会っていうのをつくっていく必要があるよなっていうことを、最近思いました。」

●患者さんやご家族との向き合い方

「私は、最近いろんなところでお話している中に、『聞き上手ほめ上手伝え上手』っていうことをよくご家族の方たちにも言っているんですけども。まずやっぱり話をよく聞いてあげる、十分聞いてあげる。話を聞くっていうことは、アドバイスをしないでアドバイスをすることになるんですよね。患者さんもそうです、ご家族もそうなんですけども、いっぱいいっぱい言いたいことを聞いてもらえるとだいたいその話している中で、『あ、自分はこういうふうにやっていけばいいんだよな』、『ここはこんなふうに考えよう』とかっていうふうに自分なりに答えが見つけられるんですよね。だから30分ぐらいいっぱいお話を聞いてあげて、最後に何か1つか2つぐらい『こうするとどうですかね』っていうアドバイスをしてあげるだけで、十分、精神療法みたいな役割が果たせるというふうに思っていますので、まずは聞き上手になりたいということと、それからやっぱり先ほどからずっと言っているように、この人の頑張っているところは何なんだろう、この人の良いところは何なんだろうっていうふうに、話を聞きながら、そういう視点をやっぱり持って、ここ頑張っていらっしゃいますよねっていうようなことをお伝えしたいというふうに思っています。

私は、(東大)デイケアをつくった宮内勝(まさる)先生から言われた言葉があるんですけれども、職員がどうあるべきかっていうふうなことで。家族の方が、舟が転覆して暗闇の中の海の中を漂っているような心境になったっておっしゃったんですね。で、やっぱりその暗い海の中で灯台の光になりたいというふうに思っていて、そういう中で、『あそこにいけば私は救われるよ助けられるよ』みたいな、そういう存在であったらいいなっていうふうに思いながらずうっと仕事をしています。」

●コミュニケーションで難しいと思うこと

「やっぱり人間って信頼関係を築くっていうのは、そんなに簡単なことではないですよね。患者さんもご家族もやっぱり今まで人とうまくいかなかったりとか裏切られたりとかそういう体験をたくさんしていらっしゃいますので、なかなか心を開いたり人を信頼したりということができにくい人たちだと思うんですね。でそういう人たちとどういうふうに信頼関係をつくっていくかは、自分が信頼される人間になるためにはどうしたらいいかなっていうところはとっても難しいかなと思っています。

私たちはいっぱいアドバイスしてあげたいというふうに思いますけども、それは信頼関係がなかったら相手の方はそれを受け入れませんよね。そういう意味で信頼関係を築くっていうことがとても難しいというふうに思っています。やっぱりそういうときに先ほど言ったいっぱい話を聞いて、『たいへんだったよね』とか、『頑張ったよね』とかそういうところで相手の気持ちに共感したり受容したり、やっぱりそういうことに少し時間をかける必要があるんだろうっていうふうに思っています。」

●病状が良くなる方とならない方の違い

「そうですね、一つはやっぱりお薬をきちんと飲んでいてほしいな。やっぱり具合が悪くなるっていうのはかなりの人がお薬を途中で止めてしまっていることが多いんですね。それが1つと、やっぱりどこかで自信を持てる体験をするということが、とっても大事かなというふうに思います。

この病気っていうのは、例えば包丁をうまく使えなかった方が包丁がうまく使えることによって、今まで人と接する話ができなかった人も話せるようになったりとか、1つのことで自信を持てるといろんなことができるようになる。ジャンプアップするんですよね。そういう病気なんですね。なので、逆に言うと、何か1つ挫折してしまったりうまくいかなかったり自信をなくすことがあると、もうすべてのことができなくなってしまうという病気というふうに思っていただいて良いと思うんですね。なので、どっかで自信を持てる体験があると良いなっていうふうに思います。

あと、やっぱりチャレンジャー、いろんなことにチャレンジしていくタイプの方っていうのは、やっぱりうまくいかないリスクも高くなるんですね。なので、統合失調症の方でも、割と仕事がうまくいったらもうずっとそこに適応して同じ生活のパターンを何年も続けていらっしゃる、そういうタイプの方がいらっしゃるんですよね。そういう方っていうのは、割と具合が悪くならないでいくわけですよね。だけれども、1つうまくお仕事がいったら、じゃあ次は海外に行きたいとか、この仕事じゃなくて事務の仕事をしたいよとか、習い事をしたいよとかいろんなことにチャレンジしていきたいタイプの方もいらっしゃいますよね。そういう方はやっぱりいろんなことにチャレンジする分だけ挫折体験が増えるっていうことがあります。」

●チャレンジャーへのアドバイスの仕方

「そこはなかなか難しいところなんですけれども、明らかにこれにチャレンジしたら失敗しちゃうよな、今は無理だよなっていうふうに客観的に見ると思うことってありますよね、それを、例えば、(メンバーが)『今英会話の勉強をして留学するんだよ』って言うと、ああ、ちょっと今仕事いっぱいいっぱいだよなって思ったら、そうか、海外行きたいんだよね、英会話の勉強したいんだよねっていう気持ちはまず受け止めて、それで例えば、『じゃあ英会話の勉強をするにはいくらぐらいお金がかかる? 今のお給料から払えるかな』とか、『時間的にはいつ余裕があるかな』とかね、そういうことを一緒に考えて、それで、じゃあ自分から、今ちょっと英会話の勉強はやめといてこのお仕事がちゃんと1年続いたらチャレンジしようというふうに延期してくれるとかそういうことになるといいんですけれども、『いや、ぜったい今やるんだ、できるよ』っていうふうにしてチャレンジする。するとチャレンジしてそこで失敗したときに、『あ、浅井さんが言ったとおりこれはちょっと無理だったよな、じゃあ今度相談するね』とか、『今度は浅井さんの言うこと聞くよね』というふうに言ってくれる場合もあります。
そうですね。そういうことも失敗の中から学んでいくっていうこともあると思います。」

<<  1  2  3  4  5  6  7  8  9  >>