統合失調症と向き合う

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福田正人さん
福田 正人さん
(ふくだ・まさと)
群馬大学大学院医学系研究科神経精神医学
准教授
1983年東京大学医学部卒業後、東京大学医学部附属病院精神神経科に入局。同大学講師を経て、1998年に群馬大学大学院医学系研究科神経精神医学准教授(現職)に就任し、現在に至る。主な研究として、統合失調症を始めとする精神疾患の神経生理学・脳機能画像研究に従事している。編著・訳書に『精神疾患とNIRS−光トポグラフィー検査による脳機能イメージング』(中山書店)、『精神科の専門家をめざす』(星和書店)、『統合失調症の認知機能ハンドブック』(南江堂)、『もう少し知りたい統合失調症の薬と脳』(日本評論社)などがある。
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4統合失調症の症状について
Q.主にどのような症状が出るのでしょうか

「統合失調症には非常にさまざまな症状が出現するんですね。だから説明するのがなかなか難しいのですけども、一応、3つぐらいに分けて考えると分かりやすいんじゃないかと思います。

1つが幻覚とか妄想(症状① 幻覚、妄想:陽性症状)といったような症状ですね。2つ目がそういうことを背景にして生活にいろいろな障害(症状② 生活の障害:おもに陰性症状)が出てきてしまうということです。3つ目が、病識と言いますけども、ご自身の病気のことについてどのくらい認識しやすいかという(症状③ 病識の障害)。そのような3つに分けて考えていいと思うんですね(表1)。」

表1.統合失調症で出現する症状
1. 幻覚、妄想
2. 生活の障害
3. 病識の障害
Q.幻覚、妄想とは?

「一番目の幻覚とか妄想ですけども。幻覚というのは、実際にはないものが見えたり聞こえたりするということを言いますけども、統合失調症の場合には、主に幻聴、つまり聞こえてくるということが多いんですね。聞こえてくる中でも、人の声が聞こえてくる。しかも内容としては、どちらかというと悪い内容と言いますか、命令したりとか非難したりとか悪口を言ったりとか、そういった悪い内容が聞こえてくるということが統合失調症の幻覚の特徴です。

もう1つの妄想のほうも同じようにして、誰か他の人が自分に対して何か悪いことをしてくると。自分のことをつけ狙っているとか、自分のことを脅かすとか、実際にはないことをそのように感じてしまうということを妄想と言います。」

Q.生活の障害とは?

「2つ目の生活の障害ですけども、これは日常生活をしている中でいろんなことができにくいということが起こってくるんですね。いろんな分野がありますけども、1つは何かを作業しようとする場合に、作業をしようとしてなかなか集中できないとか集中が途切れてしまう。それからいくつかのことを平行してやろうと思ってもうまく平行してできないとか。あるいは一続きのことをやろうと思っても途中から訳が分からなくなってしまうとか。そんなふうに物事をするということが苦手になります。

それから物事だけではなくて他人との交流も苦手になってしまうんですね。他人の、相手の方の気持ちを汲むとか、相手の方の表情からいろいろ読み取るとか、そういうことが苦手になってしまう場合があります。逆にご自身の気持ちを上手に表情として出していく、そういうことも苦手になってしまうことがあります。

さらにもう1つは、ご自身の身の回りのことも苦手になってしまうんですね。毎日きちんと起きて規則正しい生活をするとか、身の回りのことをきちんとやっていくとか、そういうことが苦手になってしまいます。

そういうふうに、ものを対象として何か操作するということも苦手になりますし、それから他人に対して接するということも苦手になる。それからご自身のことをちゃんとやることが苦手になる。そういういろんなことで、生活の障害が出てきてしまうということが統合失調症の特徴です(表2)。」

表2.生活の障害
1. 作業能力
2. 他人との交流、関係
3. 自分自身の生活の自立
Q.病識の障害とは?

「3つ目が、先ほど病識と申しましたけども、ご自身の特に幻覚とか妄想が、病気の症状のせいなんだというふうに理解することが少し苦手になってしまうんですね。ですからほんとは幻覚なんですけども実際の声だと勘違いしてしまったり、あるいは妄想なんですけども、本当に起こっていることだと思ってしまうということがあります。」

Q.陽性症状、陰性症状とは?

「陽性、陰性という言葉が分かりにくいと思うんですけども。一般の健康な方にはないものが出てきてしまうことを陽性症状と言うんですね。例えば幻覚とか妄想というのは、一般の方は持っていない。そういうものが出てきてしまうのを陽性症状と言います。

逆に陰性症状というのは、一般の方が持っている力が障害を受けてしまう。例えば意欲的に物事をするとか、対人関係を上手にやるとか、気持ちの面で生き生きとしているとか、そういったことが障害を受けてしまって欠けてしまうということを陰性症状というふうに言います。

その陽性と陰性という言葉は、実は脳の働きもちょっと仮定した言葉でして、陰性症状というのは脳の働きが悪くなってしまった、そういうところを反映していると考えるんですね。一方、陽性症状というのは、脳の働きが悪くなったところがあるせいで、脳の一部が、今度は逆に少し調子を崩してしまって、場合によっては働きすぎてしまう。そういった場合に、陽性症状と言われるような幻覚や妄想が出てくるというふうに考えられています。」

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