統合失調症と向き合う

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藤井康男さん
藤井 康男さん
(ふじい・やすお)
山梨県立北病院院長、
慶応義塾大学医学部精神神経科客員教授
1977年慶応義塾大学医学部卒業。1978年4月 山梨県立北病院に勤務。1985年9月 医学博士を授与。1985年8月〜1年間 フランスのバッサンス公立病院へ留学。2003年4月山梨県立北病院院長に就任し、2007年4月より慶應義塾大学医学部精神神経科客員教授。
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8補助的に併用する薬
 ①「不眠への対応:睡眠薬、抗不安薬」

「不眠という現象は、統合失調症の具合が悪い時にとてもよく起こる症状ですし、あるいは良くなってからも、なかなか眠れないということがよくあります。で、ここは気をつけなければいけないのですけど、統合失調症の不眠 にもいろんな種類があるということですね。例えば、救急・急性期で幻覚妄想が活発なような時の不眠は、その症状自体に関連があります。ですから、そういう時には、統合失調症の病気を治すのが一番大切ですね。

だから、例えば幻覚妄想があって不眠があったら、幻覚妄想を治す薬と不眠の薬を両方出せばいいというのは間違いですね。まず統合失調症の救急・急性期の症状を治す薬を出すだけで十分なことがよくありますね。で、余計な薬を使わないほうがいいのが、一番大切なのです。もちろん救急・急性期でも、ある程度不眠の薬を併用するということはよくありますし、それがとても効果がある場合もあります。

例えばオランザピンという薬は、それだけでよく眠れることがあるので、睡眠薬などをあまり使わなくても救急・急性期の治療ができることが多いのですが、リスペリドンもちょっとその傾向があります。アリピプラゾールなどは、やはり睡眠薬等々が必要となるケースが多いかもしれませんね。

睡眠薬というのは、やはり睡眠薬の副作用もあるということに気をつけなければいけませんし、薬によってはそれほどではないのですけど、やはりある程度長いこと使っていると習慣性もありますし、当然睡眠薬が効きすぎると、次の日が眠くてしょうがなくなりますし、頭がぼんやりするかもしれませんね。ですから、睡眠薬は使わなければそれに越したことはないのですが、必要な場合も、できるだけ少ない量を使うし、必要がなくなったら減らしてやめていくというのがとても大切ですね。

外来でやはり睡眠障害と言いますか不眠がある方に関して軽い睡眠薬を使うということはとてもよくありますし、必要な場合もたしかにありますね。ただこれも延々と使っていたりすると、それによる眠気なり、例えば物忘れなり、いろんな副作用が問題になってきます。例えば抗精神病薬と睡眠薬を使っていて、それで頭が朦朧(もうろう)としている中で、睡眠薬を減らせば、そういう副作用がなくなるということはよくあるのです。だから、それが抗精神病薬の副作用だと誤解されていることがよくあります。ですから、睡眠薬を飲んでいる方に関しては、やはりどの薬が睡眠薬で、どの薬が抗精神病薬なのかということをよく聞いてですね、急にやめると睡眠薬というのは眠れなくなりますので、少しずつ薬を調節してもらって、できるだけシンプルな処方にしてもらうのがとても大切でしょうかね。」

●睡眠薬、抗不安薬の問題となる副作用

「睡眠薬の問題として非常に大切な問題が1つあるのです。ベンゾジアゼピンと言われている抗不安薬というか睡眠薬が、たいへん今よく使われているのですが、そういう薬が、人によるのですが、奇異反応と言われている“パラドキシカルリアクション”というものが起こることがあるのです。

これは、患者さんによるのですけども、ちょうどちょっと酔っ払ったみたいな状態で、かえってイライラして怒り出したりとか、死にたくなったりとか、そういう衝動性が増すことがあるのですね。で、こういうことが起こる患者さんというのは一部なのですが、もともと衝動性があるような方です。あるいは知的な問題がある方だとか、ご高齢の方だとか、押さえがきかなくなりやすいような方に起こりやすいと言われています。やはり、こういう睡眠薬とか、抗不安薬を結構たくさん使うと、そういうことが起きやすいというふうに言われています。ですから、せっかく薬をたくさん飲んでいて、かえって悪くしているということがよくあるのですね。」

●併用薬の整理について

「ですから、他院から紹介されて来た方の中で、この抗不安薬と睡眠薬がたくさん併用されている方がいると、それを少しずつ調整して減らしていくだけで、ずいぶん病気、病状が良くなることがよくありますね。この抗不安薬と睡眠薬の問題というのは、併用している補助的な薬ですけれども、この副作用というのは十分気をつけなければならないと思うのです。

ただ、このベンゾジアゼピンの薬の中でも、とても重要な役割を示す場合があります。それはどういうことかというと、アカシジアという副作用であるとか、知覚変容発作と言われている副作用があるのですけど、そういう場合に、このベンゾジアゼピン系の抗不安薬、特にクロナゼパム(商品名:リボトリール、ランドセン)という薬が特効的に効くことがあるのです。これは、(今回の)震災でちょっと製造が十分にいかなくなって、今、問題になっているのですが、今の統合失調症の薬物治療に、ある意味では絶対必要な薬の1つではないかと思うのですが。

知覚変容発作というのは、特にハロペリドールの時によく起こったのですが、リスペリドンでも起こることもありますし、これが、最近の第二世代の薬だと非常に目立たない形で起こっていることもあるので、気をつけなければならないのですけれども。

どういう副作用かというと、だいたい1日の中で夕方に起きてくるのです。夕方になってきて落ち着かなくなってくるとか、特に、ものの枠、黒い枠が非常に気になってきて苦しくなる。場合によったら他の幻覚症状みたいなものがちょっと出てくるかもしれない。幻聴みたいなものが起こる人もいます。ただ、これが統合失調症の幻覚妄想と違うところは、本人がたいへん苦しく感じていて、何とかしてもらいたいというふうに思えるということですね。それで、夕方に悪くなる。で、眠っているとよく治るということになりますね。

これが精神症状と誤解されていることがとっても多いので、気をつけたほうがいいのですが、これはやはり薬物に関連した何らかの副作用だというふうに思ったほうがいいし、これが割合起こりやすい方に関しては、クロナゼパムを少し使いながら、抗精神病薬治療を行うということはとても有用ですね。」

アカシジア:抗精神病薬による副作用の1つで、じっとしていることができず座ったり立ったり、落ち着きがなくなったりする。β遮断薬、抗コリン性抗パーキンソン薬などが効果があることもあるが、改善しにくいこともある。抗精神病薬の変更が必要なことも多い。
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