統合失調症と向き合う

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藤井康男さん
萱間真美さん
(かやま まみ)
聖路加看護大学精神科看護教授
1986年聖路加看護大学卒業。質的研究方法を用いて、ケア技術やさまざまな状況にあるケア対象者の主観的体験に関する多くの研究に参画している。精神障害者の退院促進および地域ケアを支えるサービス提供のあり方、精神科訪問看護の実態と効果なども研究。
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11心に残るエピソード
Q.心に残っている方のエピソードをお教えください

「コタツを1年中出していらっしゃってコタツの中で何もかもしていらっしゃる方のところに訪問に行っていたことがありました。その方は、朝はラジオ体操をされて、それもコタツの中でされて、それからいろいろな食器とかスプーンとかフォークとかも全部コタツの中の牛乳パックの中に入れていらっしゃって、そこから何もかも出てくるというような方だったんです。

ちょっと誤解があるといけないのですが、私どもが訪問に伺って、その方が1人だとなかなか食事ができないので、『一緒に食べてください』と言われる時があって、その方は “モンブラン”というお菓子が大好きで、プリンの上に栗のクリームが乗っている(モンブラン)を必ず買っていらっしゃる方だったんですね。でもコタツの上に置いておくので温かくなって全部溶けちゃうんですけど、私達が行った時に、まだ形がある時は元気な時。朝、買いに行って、まだ溶けていない時だったので、『あぁ、今週はお元気なんだなぁ』とか、溶けてしまっている時は、私達が来るので何日か前に買ってくださっているんだけれども、『ちょっと溶けちゃったなぁ』ということがあったんです。

その方が、『果物に毒を入れられるので、切ってある果物は食べられない』とおっしゃっていて、ある時『スイカを食べたい』と。その方は、夏になるとご飯を食べられなくなって、脱水になってしまう人だったので、小さい切っていないまん丸のスイカを買って行ったことがあるんですよね。そしたら、『残すと毒を入れられるから、全部食べきらないといけない』と言われて、そのスイカを半分に切って、グレープフルーツみたいにスイカを食べたんですけど、ものすごい量がありましてね。

で、その方がスイカを食べながら、すごく嬉しそうな顔をしてゲップをされたのを覚えています。毒が入っているとか、食べられないとか、すごくご自分の中でたくさん制限をしてしまう人だったのですけど、すごく満足感のあるゲップをされていたので、自分の家で。病棟だったらそういうことはあり得ないと思うんです。そんなに大量にスイカを食べるとか。それから、安心した環境の中で、思う存分食べて誰からも何も言われないとか。ゲップしたあとに笑われたのを見て、『あぁ、なんか楽しんだろうなぁ』と思って、良かったかなと思ったんですけど。

その方は今でもお家で生活していらっしゃいます。ただ、季節ごとにちょっと悪くなる季節があるので、そういう時は病院でしばらく生活をされて、それでまたお家に帰られるということがあると思うんですけれど、楽しんでいらっしゃると思います。」

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