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糸川昌成さん
糸川昌成さん
(いとかわ まさなり)
東京都医学総合研究所 精神行動医学研究分野「統合失調症・うつ病プロジェクト」プロジェクトリーダー
精神科医・分子生物学者。東京都医学総合研究所の精神行動医学研究分野「統合失調症・うつ病プロジェクト」プロジェクトリーダーとして勤務している。1961年(昭和36年)生まれ。母親が病気体験者。分子生物学者として研究に従事しており、週に1度精神科病院で診療を行っている。妻、息子2人、娘1人の5人暮らし。
糸川さんの研究については、著書「臨床家がなぜ研究をするのか—精神科医が研究の足跡を振り返るとき—」(星和書店) 「統合失調症が秘密の扉をあけるまで—新しい治療法の発見は、一臨床家の研究から生まれた」(星和書店)を読みください。
家族としてのインタビューはこちらでご覧いただけます。
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3研究で大切にしていること
Q.研究する上で大切にしていることは?

「こんなこと(を言うと)、僕は科学者として信用されなくなってしまうのかな。僕は意外と直感を大事にしているのですね。それは、いわゆる、きちっとした科学者は“バイアス”といって嫌がるのですけども、僕はある種の直感を大事にしていて……。

例えば最近は、業者などでも、自分が作ったマウスを預けると、一連の行動実験をして、結果をエクセルファイルで返してくれるのです。でも、そこには、要するに統計学的な差だけしか書いていなくて、『糸川先生、せっかくこういう遺伝子の改変マウスを作ってくれたけれど、何も表現型がありませんでした』と返ってくるのです。だけれど、実はうちに新しくマウスを行動実験できる若い研究員を雇ったのですね。ですから最近は外注しないで、テストバッテリーをその研究員自身にやってもらうのです。

そうすると、統計学的には差が出ないのだけれども、直感的に『この遺伝子を壊したマウス、先生、なんか違いますよ』というようなことを、その若い研究員が言ってくるわけです。そしたら、僕はもう徹底的に、『これはやって無駄だと思うか、それともやったら何か表現型が出ると思うか』と聞いて、『絶対あると思います』と言ったら、粘ってやっていいと言うのです。

これは、マウスに限らずすべての実験は、一見、統計学的には差がなさそうだけれど、『なんか違う』ということを実験している本人が感じ取ったならば、そういう感覚をすごく僕は大事に思っているのです。」

テストバッテリー:総合的かつ客観的、正確に理解するために、必要かつ適切な複数の検査を施行すること、またその組み合わせ。

Q.直感を大事にするようになったきっかけがあるのでしょうか

「アメリカに留学している時に思ったのですが…、すべてが非常に契約とビジネスで発生するのです。もちろん何かを頼めば解析して返してくれるし、あるいは、患者さんから血液をもらう時には何百ドル謝礼を払う。それから、耳鼻科の医者に頼んで、嗅上皮(きゅうじょうひ)の生検をしてもらう時には、その耳鼻科医の拘束時間の分だけの謝礼を耳鼻科医に払うとか、すべてお金で、きちっと契約している。

患者さんは、髄液をあげるといくら、MRIを撮るといくら、心理検査を受けるといくらと、要するに研究に協力をするとお金がたくさんもらえる、そういう契約なのです。

でも日本の場合は、全然…、主治医は忙しい臨床の合間に、一所懸命僕はお願いして患者さんを紹介してもらうわけです。医者、松沢(病院)の先生達は僕に患者を紹介しても別に一銭も懐(ふところ)に入るわけではないのに、一所懸命研究をしたいという僕のお願いと、それから臨床医が、この患者には治ってほしいと思った時に、自分の一所懸命診療していた患者さんを紹介してくれるわけです。

そういうアメリカの、なんて言うか、すべて公式で動くようなものを見た時に、何か違うなあと…。僕らでしか見えないものがあるなということを感じたのです。それは、被験者と研究者との間には、ほんとうに血液をくださった時の感謝と、それから、必ず何かを発見してお返ししますよという暗黙のメッセージですね。そういうものの中で初めて見えてくるもの。主治医がこれはと思って紹介してくれる患者さんの中には、やっぱり『これは』と思うものがあるのではないか、そういう直感主義みたいなものを僕は今、研究の中に大事にしているのですね。

それは、アメリカがあまりにも、『スキゾフレニア(統合失調症)の皆様、ご協力ください、何百ドルあげます』と、ばーっと2万人も集まって来るという…、あれはあれでもちろん、華々しい成果をあげているとは思います。けれども、そういう方法とは違った日本的な、人と人との関係の中で成就していく臨床とサイエンスだからこそ、発見できるものがあるのではないか。欧米人では見えないものが、僕らには見えるのではないかという気がしていて、そこを大切に研究しています。」

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