統合失調症と向き合う

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糸川昌成さん
糸川昌成さん
(いとかわ まさなり)
東京都医学総合研究所 精神行動医学研究分野「統合失調症・うつ病プロジェクト」プロジェクトリーダー
精神科医・分子生物学者。東京都医学総合研究所の精神行動医学研究分野「統合失調症・うつ病プロジェクト」プロジェクトリーダーとして勤務している。1961年(昭和36年)生まれ。母親が病気体験者。分子生物学者として研究に従事しており、週に1度精神科病院で診療を行っている。妻、息子2人、娘1人の5人暮らし。
糸川さんの研究については、著書「臨床家がなぜ研究をするのか—精神科医が研究の足跡を振り返るとき—」(星和書店) 「統合失調症が秘密の扉をあけるまで—新しい治療法の発見は、一臨床家の研究から生まれた」(星和書店)を読みください。
家族としてのインタビューはこちらでご覧いただけます。
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4統合失調症と遺伝
Q.統合失調症は遺伝するのでしょうか

「アーヴィン・ゴッテスマン(Irving I. Gottesman)という人が、1991年に行った研究があるのですが…。統合失調症の人で双子の人を連れてくるのです。それで、双子の兄弟姉妹が2人とも統合失調症の人が何%いたかを調査する研究*1があります。

*1 McGue M, Gottesman II.:The genetic epidemiology of schizophrenia and the design of linkage studies. Eur Arch Psychiatry Clin Neurosci. 1991;240(3):174-81.

一卵性双生児というのは、1匹の精子と1個の卵子が受精して、1つの受精卵になって、その1つの受精卵が細胞分裂する過程で2つにちぎれて双子になったのが、一卵性双生児なのです。元々は1個の受精卵ですので、一卵性双生児というのは、ほぼ100%DNAが一致しているのです。

もし遺伝性が強かったなら、統合失調症の一卵性双生児では、片方が発症したらもう1人も100%発症するはずなのですね。ところが実際には2人とも発症している人は、半分なのです。残り半分は、1人は発症しているけれども1人は健常者なのです。ということは、環境が半分ぐらい影響しているだろうと考えられているのですね。

もう1つ、二卵性双生児も調べているのです。2匹の精子と2個の卵子が受精して、2つの受精卵になって、2人の双子になって生まれたのを二卵性双生児と言います。この場合はDNAが同じ割合は兄弟姉妹と同じぐらいですが、さきほどの一卵性双生児が100%同じに比べると、ぐっと低くなります。

二卵性双生児で2人とも統合失調症だった人は17%しかいなかったのです。そうすると、DNAの同じ割合の低い二卵性のほうが、DNAの同じ割合の高い一卵性双生児よりも、発症一致率が低い。要するにDNAが同じ双子ほど、2人とも発症する割合が高いということから、遺伝が関係するということは言えるのですね。

でも、これは相反するようですけれども、一卵性双生児を見た時に、100%DNAが同じでも、半分の人は、1人は発症して1人は発症しないということは遺伝だけではないのですね。ですから、よく患者さんのご家族やご本人からも聞かれますけれども、『氏か育ちか?』と言われますが、『氏も育ちも』なのですね。

これは特に統合失調症だけに限ったことではなくて、いわゆる、糖尿病とか、高血圧とか、高脂血症とか、人口の中に一定頻度でいるような頻度の高い、ありふれた病気、コモンディジーズなどと言うのですが、統合失調症もコモンディジーズです。こういうのはみんな、そういう環境と遺伝が同じぐらい影響し合う病気なのですね。

ですから、遺伝しますか?と聞かれたらば、100%遺伝ではないけれども、高血圧や糖尿病と同じぐらいの割合で、体質が似通うことはあると。だけれども何か運命論的に、親が統合失調症だったら子どもは確実に統合失調症になるとか、そういうことはないのですということですね。」

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