統合失調症と向き合う

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糸川昌成さん
糸川昌成さん
(いとかわ まさなり)
東京都医学総合研究所 精神行動医学研究分野「統合失調症・うつ病プロジェクト」プロジェクトリーダー
精神科医・分子生物学者。東京都医学総合研究所の精神行動医学研究分野「統合失調症・うつ病プロジェクト」プロジェクトリーダーとして勤務している。1961年(昭和36年)生まれ。母親が病気体験者。分子生物学者として研究に従事しており、週に1度精神科病院で診療を行っている。妻、息子2人、娘1人の5人暮らし。
糸川さんの研究については、著書「臨床家がなぜ研究をするのか—精神科医が研究の足跡を振り返るとき—」(星和書店) 「統合失調症が秘密の扉をあけるまで—新しい治療法の発見は、一臨床家の研究から生まれた」(星和書店)を読みください。
家族としてのインタビューはこちらでご覧いただけます。
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5薬剤への期待
Q.遺伝子研究から見える薬への期待があれば教えてください

「今回たまたま、(ある)酵素(GLO1)を欠損する患者さんから、ある毒性物質(終末糖化酸物;AGEs)の蓄積が、統合失調症と関連する可能性を見出したわけですが、その毒性物質というのは、いわゆるこれまで信じられていたドーパミンとかセロトニンとか、脳内の神経伝達物質とは無関係なものなのですね。

1952年に、アンリ・ラボリ(Henri Laborit)というフランスの外科医が、クロルプロマジン(定型抗精神病薬)を発見してから60年以上経ったわけですけども、この間ずっと、神経伝達物質を調整する薬が中心に開発されてきたのですが、今回代謝物質みたいなもの(ピリドキサミン)を僕らが発見したことで、ドーパミンでもない、セロトニンでもないようなものが統合失調症に関係しているかもしれないとしたならば、今まで治療抵抗性と言われて、薬を飲んでもなかなか治らないような人に、ドーパミンでもセロトニンでもない薬を飲ませることで、そういう人達が、もしかしたら治る可能性があるのではないかというのが、私の考えです。」

ドーパミン、セロトニン:神経伝達物質で、ドーパミンは意欲や集中力などに関与し、セロトニンは情緒や運動などに関与する。

Q.先生の研究が実際に臨床に使えるようになるということですね

「ピリドキサミンという特殊なビタミンに関しては、この間、医師主導治験が終わって、次の段階の試験を始めて、一応2018年か2019年頃に承認を目指して、今、準備をしているところです。

私の薬の開発はこれでも、待っている患者さんやご家族にとってはほんとうに長いとお考えでしょうけども、一般の製薬メーカーが、膨大な化合物からスクリーニングをして、それが動物実験を通過して、健常者の試験を通過して、実際の患者さんにまで承認が行くまでの年数から考えたら、はるかに速いピッチなのですね。

とは言え、僕の研究の意義があるとするならば、そのドーパミンでもセロトニンでもないものを治療ターゲットとする最初の例をつけたという点が、このあと製薬メーカーは、少し方向転換をして、セロトニンでもドーパミンでもないものを一所懸命作り始めると、これまでの薬で報われなかった人達にスポットが当たるのではないかなという気はしています。」

Q.薬以外に期待できる治療法は?

「先ほどの患者さんで見つかった毒性物質(終末糖化酸物;AGEs)というのが、やはり食事とある程度影響しますので、新鮮な野菜ですとか、バランスのとれた食事というのは、そういった毒性物質を蓄積させないためにもいいのではないかなあと考えてはいます。ただ、まだ、科学的にエビデンス(根拠)をとっているわけではないので、まあ、科学者が考えた、まだ予断のような域を出ていませんけれども。

それから、運動に関しては少し論文も出始めています。特に、うつ病などを中心に、運動がいいとか。あとは実際、神経細胞が、まだ動物実験レベルではありますけれども、運動したほうが脳の神経細胞の分裂がさかんになるというようなデータは、げっ歯類では出ていますので、そういう神経細胞が回復したりするのに運動がいいのではないかということを、人にも適用できる可能性はあると思います。まだ、きちんと科学的に実証はされていませんけれども。そういう方向には僕は興味があります。

特定のスポーツを支持するようなというよりは、むしろこれまでの既成の概念の枠に収まらなかったものに手を出していいのではないかなという気がしています。

元々は遺伝子屋が、そういう代謝障害の毒性物質を見つけることをきっかけに、ドーパミンでもセロトニンでもないものへ手を伸ばし始めているきっかけを作ってくれたのは、精神科医ではない、一般の理工学部の人が言い出したことですから。だから研究者というのも、医者でなければいけないということはなくて、むしろ積極的にそういう生命科学系の、時によっては人文学系でも構わないかもしれないです。そういう人達ができることをやったらいいと思うのです。運動だろうが、ヨガだろうが……。

ただ、一応、実証していく過程は、科学者として経なければいけないなとは思っているので、夢のある話として聞いていただく分と、医学的なエビデンス(根拠)としての話というのは、また別の手続きが必要にはなってくると思うのですけれども。

ただ、堅く神経伝達物質に留まっている必要はないだろうと…。必要がないというよりは、むしろそこから積極的に出て、みんなが当事者のために研究すべきだなというふうには思っています。」

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