統合失調症と向き合う

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向谷地 生良さん
向谷地 生良さん
(むかいやち いくよし)
北海道医療大学大学院看護福祉学研究科教授
1978年に北海道浦河町の病院に精神科専属のソーシャルワーカーとして赴任し、1984年に地域活動拠点「浦河べてるの家」を設立。理事、アドバイザーとして活動している。向谷地さん等が提唱する精神障害を持つ当事者が自らの症状を含めた生活上の出来事を研究・考察する「当事者研究」が広がりをみせている。べてるの家の詳細は、ホームページ参照。
浦河べてるの家:就労支援事業所、グループホーム、共同住居などを運営。べてるは旧約聖書に出てくる地名で「神の家」という意味。全国から年間2,000人以上の見学者が訪れる。
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2べてるの家と地域について
 ② 地域性について
●べてるの家のような活動ができるためには地域性が関係するのでしょうか

「地域性はあまり関係ないと思います。今、あちらこちらで、私達のこの発想を取り入れた場所作りや病院にそれを生かしていこうとか、いろんな試みがすごく始まっていますけど、けっして、私達のようになる必要はないわけだし。私達のむしろ失敗経験をおおいに生かして、それぞれの場所作りに生かしていただければなと。またそういう場所作りをしようとしている人達が今すごく多くなっていますし、道内でも、私、何か所もそういう拠点作りに関わっていますけど。

(相当な覚悟が必要なのでは?)そんなことはないです。その今の覚悟の3分の1のいい加減さがあれば(いい)。」

●年に二千人以上の見学者にどのような点を見ていただきたいですか

「むしろ皆さんが何を見たいのかで、そのリクエストに応えてこちらはプログラミングをしているのですけどね。そんな(に)たくさんあるわけではないですけれど。

やはり地域的にはものすごく、例えば私が来てもう37年経ちますけど、人口は4割近く減ってるわけですよね。そういう中で、ここ(べてるの家)はどんどんどんどん拡大していっているわけですね。そういう意味では、けっして過疎が、単純にそのコミュニティーを弱めたり、何か崩壊に導くわけではなくて、いろんな悪条件の中でも、そしてそこで働く人達が、最も条件の悪い人達でも、ちゃんとそこから可能性を生む出すことは全然可能だということですよね。

だからそういうことに興味を持って来られる方達もいますし、当事者研究そのことを(に)興味を持って来られる方達もいますし、相談事があって来られる人達もいますし、さまざまですね。」

●自治体のサポートとべてるの家の活動との関係をどのように考えていらっしゃいますか

「今の障害を持つ人達の支援というのは、その自治体の経済力に応じてというよりも、ちゃんと国が責任を持って、どの地域でも、それを利用する人達に対しては、ちゃんとバックアップしますよというしくみですので、今、それほど町自体がそのこと(支援)で出費が増えたりということはないと思うのですね。

でも私達は、この町で、精神科病棟で暮らすという、長期での入院経験の(ある)人達がいますけど、その人達も、考えてみれば一人の町民ですよ。精神病という病気を経験した、一人一人の町民が自分達の経験を大事な経験として受け止めながら、その経験をバネにしていろんなアイデアを駆使していろんな事業を起こしていくと、そのことに興味を持って、年間二千人以上の人達が、地元に来てホテルに泊まったり、ここで買物をしたりして帰るという経済循環を生むわけですね。

そういう意味では、ただ障害者支援の報酬という出費はあるかもしれませんけど、それが、こういう経済を生み出していくという流れ(がある)。私達は本当に、もともとは起業して事業を興して、それを拡大していくことをずっと願ってやってきたわけですね。で、それを支えるためのさまざまな福祉サービスという形で(すので)、福祉サービスがメイン・目的ではないと。

そういう意味では、まだまだ工夫の余地はありますけど、やはり昆布の産直ですとか、出版ですとか、海外交流ですとか、いろんな事業の中で、仕事を興していって、けっして地元だけで完結するのではなくて、全国、もしくは世界を相手にして、大きな一つのネットワークを、この過疎地域から起こし(て)いく、そこで雇用が生まれて、人が集まってきて、という循環になればいいなと思っているのですけどね。

私達は別に町を活性化するために、これをやってきたわけではないですね。ということは、いわゆる企業として、経営的にうまくいかない、昆布も売れない、経営的に行き詰まる。それでは、店じまいするしかないわけですね。

例えば、自分達の経験をネガティブにとらえてですね、あんまり自分のことを言ったら、社会に発信したら、何を言われるか分からないから口を閉ざして、地域の人達ともあまり交流しないようにしてということをどんどんやっていくと、売上も減ってきて、金が回らなくなって、閉じなければならないというふうに、もしかしたらなるでしょうね。」

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