統合失調症と向き合う

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伊勢田堯さん
伊勢田堯さん
(いせだ たかし)
精神科医
代々木病院などで外来診療(非常勤)を行っている。 1968年3月群馬大学医学部卒業。同附属病院での自主研修を経て1970年4月同大学神経精神医学教室に入局。生活臨床研究室に所属。群馬大学デイケア部門主任、病棟医長、外来医長、医局長等を歴任。1988年5月〜12月、英国ケンブリッジ、フルボーン病院に留学。1992年4月から東京都の3つの精神保健福祉センター、2004年から東京都立多摩総合精神保健福祉センター長。2008年4月より代々木病院精神科非常勤医師、都立松沢病院非常勤医員、明星大学文理学部非常勤講師(2012年3月まで)、2015年4月から榛名病院非常勤医師、2016年4月から心のホームクリニック世田谷非常勤医師。
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8家族へのアドバイス
Q.家族にはどのようなアドバイスをされているのでしょうか
①当事者に一目置く姿勢

「ご家族も、どうしても隔離収容型の対応をしてしまう。私自身もそうです。家族の方も身近に接しておられればおられるほど、どうしても困った症状をなくすということが中心になってしまうので、私はリカバリー理念というものを身につけようと、いつも振り返らなければいけないというふうに思っているのですが。

ジェフ・シェバード、私の友達が教えてくれたのですけど、彼の友達のイギリスのスレイドという人が2009年にリカバリーを短い言葉で表現したようです。

『それはとても簡単なこと。リカバリーとは本人が望む人生を送れるように支援すること。問題点をなくすということではなくて、本人が望む人生が何かということを一緒に考えて、それができるように支援し続けること』

この理念を私はいつも頭に入れて、当事者に接しなければいけないと痛感しています。すごく教わった患者さんがいるのですけど。『近所の小学生や中学生が悪口を言う』と、そういう妄想に苛まれて、何回も自殺企図をするような人だったのですけども。汗っかきで、風呂にも入らないので、診察室が悪臭で一杯になるような患者さんだったのです。よーく話を聞いていたら、『この幻聴に苛まれていて、もし俺がこうだったら、彼みたいに生きていけるかなぁ』というふうに、ふと診察中に思えるようになった。

俺、白衣を着て、上から目線で指導し治療している気になっていたけど、もしかしたらこの人、俺よりずっと偉い人かなというふうに一瞬思えるようになったのですよね。そうしたら、囲碁で言うと、僕、囲碁まったくできないのだけど、『一目置く』、格上だからちょっと一目置かしてくださいとへりくだる、そういう心境になったのです。そういう心境になったら、すごく治療がうまくいったのですよ。

私も、人並みの苦労をして育ったつもりでいるのだけど、この患者さんと比べりゃ大したことなくて、よく自殺もしないで生きているよなというふうに思えるようになった。そういうふうに私が自然に、ま、しょっちゅうそういうふうな心境になれるわけではないのだけど、なれた時には他の患者さんでもすごくうまくいくようになった。そうしたら、ダグラス・ベネットというイギリスの(精神科医)、今の人達を育てた、今の人達は第三世代のような気がするのですが、ダグラス・ベネット達が、どんな治療法も患者さんを尊敬の念を持って接しているかどうかで治療成績を(が決まると)出してしまった。

私は、ご家族の方も大変だけども、自分たちも苦労してね、ここまでこられたのだけど、頑張ってきたご両親の方から見ると、『俺の苦労に比べると大したことないんじゃないか。恵まれているし、家もあるし、根性が足りない』と(患者さんを)見てしまうご家族の方が少なくない。『この病気を体験しながら生きているというのは大変なことなのだという目で子どもさんを見れるように努力したいもの』と呼びかけています。

これはいろんなガイドラインで第一番に来るようになったのですけど、でも、難しいですよね、ほんと。どうすればそうなれるか。認知行動療法の研修でイギリスからポール・フレンチという看護師ですけど、彼のワークショップは、ワークショップ参加者に疑似体験をさせるのですよ、統合失調症の。(参加者は)勝手にしゃべっていて、それで他の人に耳元で悪口言わせるのです、バカだのなんだのと。それでそのまましゃべり続けるのがどんなに大変か。患者さんはこういう苦労している中で生きているのだということを、まず理解した上で認知行動療法を単なる技法としてではなくて、そこをまず大事にするように。

上から目線で病気を治す、障害を治していくということでは、治療効果は上がらないのだと。だから、疑似体験をすることが大事です。それから、やはり人生……、子どもさんが統合失調症になったという、統合失調症がなければもう問題はないのにという見方ではなくて、統合失調症を抱えながらもどういうふうに本人が望む人生が送れる(ように)するか。そういう視点になるのはとても難しいことだと思うのですが。社会全体がそうなっていないので、家族の人達だけがそうなるのは大変ですけど、まずは姿勢として、そういう一目置く態度、尊敬の念を持って、敬意を持って接する。これだけでずいぶん良くなるのではないかなと思います。いろんな技法を使わなくてもね。」

ジェフ・シェバード:イギリスのみならず世界的な精神保健福祉の向上に貢献している臨床心理士。
スレイド(マイク・スレイド):イギリスのコンサルタント臨床心理士で、ロンドンキングスカレッジ精神医学研究所のヘルスサービス研究部門教授
ダグラス・ベネット:イギリスの精神科医
認知療法・認知行動療法:認知に働きかけて気持ちを楽にする精神療法(心理療法)の一種である。認知とは、ものの受け取り方や考え方という意味。認知療法では、考え方のバランスを取ってストレスに上手に対応できるこころの状態をつくっていく。
②家族が困っていることをなくしてほしいと迫らない

「それからもう一つ、私のいちばん訴えたいことですけど、家族が困っていることをなくしてほしいというふうに、患者さん、当事者に迫らないことですね。症状や生活障害、幻聴、昼夜逆転だとか挨拶しないとか、そういう、症状をなくそうというスタンスではなくて、子どもさんが持っている希望とか能力、そういうものを見つける、探すのだという姿勢に立って、それが発揮できる役割とか活動とか、そういうものを見つけ出して工夫していくという姿勢を貫きたいと。家族の方だけでやるのは大変ですけど、努力しているとできるようになりますので、一緒に努力していきたいと思います。」

Q.家族の回復は当事者の回復につながりますか

「当然です。家族が蘇る方法というのが患者さんが蘇る、当事者が蘇る方法と同じなのですよ。だから自分達が蘇る方法を当事者にすればいいのです。だから別物ではないと思いますね。」

Q.症状が改善する方としない方がいらっしゃいますが、違いはどこにあるのでしょうか

「私がいちばん困ったのは、幻聴や妄想をなくしてくれと、昼夜逆転を治してくれ、そうならないと社会復帰はあり得ない。特定の非定型精神病薬を使って、要するに病気を治してくれと言う。(でも)病気になる背景があるので、その背景を考えなければいけない。その際に、背景を我々も見極めなければいけないし、見極めた上で支援する時に子どもさんのできないところではなくて能力、持っている力を見て、それを伸ばす支援をしましょうと。だから症状を取ることにこだわってしまうとなかなか良くなりません。むしろ悪くする。そこを理解していただきたいです。」

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