「インターネット時代のアンチスティグマJPOP-VOICE」
福田正人さん ●福田正人さん
群馬大学大学院医学系研究科神経精神医学
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[司会] 野村さん:最後に、群馬大学医学部附属病院に勤務されている精神科医師の福田さんのご講演です。福田さんよろしくお願いいたします。

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福田さん:3人の方から非常にすばらしいお話をお聞きして、蛇足になるかもしれませんけれどもつけ加えさせてもらいます。体験と実感に基づくメッセージは社会人、大学生、高校生にどう受け止められているかというようなことでお話しさせていただきます。

「JPOP-VOICE」といったようなアンチスティグマの活動というのは、最終的には送り手のメッセージが受け手にどう受け取られているかということが大事なのだろうと思います。受け手にはさまざまな方がいらっしゃいまして、当事者や家族の方が勇気をもらったり連帯感を得たり、あるいは専門家が自分自身の仕事を見直したり教育で利用したいということもありますけれども、やはりいちばん大きいのは、一般の方にどういうふうに受け取られているかということであると思います。そこで社会人と大学生と高校生を対象にしまして少人数ですけれどアンケートを行いました。こちらに名前があがっていらっしゃるような方のご協力を得て、その結果をちょっとご紹介しようと思います。

●社会人の意見
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まず社会人の方の感想ですけれど、やはり顔と本名を出すということで非常にインパクトがあったという感想がありました。当然ですね。

本当に普通の人なんだ。好感が持てるし、動画で伝わる部分が大きいなと思いました。それから、どんなことで困っているかがわかった。症状の話を聞くだけではなかなかわからないというようなお話がありました。たぶん一生懸命全部観ようと思ったのでしょうね、情報量が多いので一度に観るのは大変だと思った、ちょっと辛かった。それから専門家ではありませんから用語解説のような基本的な解説といったものがないと、せっかくの当事者・家族の方の言っていることがわからない場合があったとの意見がありました。それから医療関係者の話はつまらない、我々に向けられていますけれども、そんな意見もありました。

わかったことは、「どういう病気なのか」がわかったと。非常に幅があるとか、発症については、他人や社会と関わる時に多く発症するということがわかったというようなことで、いろんなショッキングな出来事で発症していると。それから治る病気だということがわかった、社会生活が可能になる。一般の方はご存じありませんから、そういうことが初めてわかった。それからご本人の苦しみや悲しみがあり社会的な苦労もあるということで、いろいろな影響も大きいことがわかったという感想もありました。

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ご覧になった社会人の方が偏見を解消するにはどうしたらいいかということを考えると、やっぱり正しい情報を伝えることが大事だということで、例えばヘルパーの講座にもこういった研修を加えたほうがいいだろう。それから「JPOP-VOICE」のように体験者のお話をなるべく聞いてもらう。地域社会や学校に行って交流するということが大事だろう。小説とか映画とか漫画の中に取り上げる。さっき出ていました中村ユキさんの本などがいい。それからこういうサイトや活動をメディアに訴える。これは森さんの言葉ですけども、「温かな無関心」というようなことがあります。

一方で難しいという意見がありまして、お友達に統合失調症の方がいらした方は、やっぱりつき合う場合に覚悟が必要だということがありました。お医者さんの言葉や態度は心無い場合が多いというようなことで非常に厳しいご指摘ですね。それからいろんなことが発展しているけれども現実の医療現場は昔のままじゃないかというようなご批判もありました。

●大学生の意見
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今度は大学生の方ですね。少し若い方になりますけど、やはり生の声を聞けて良かったとかリアルで衝撃を受けたという意見がありました。それからお話しされた方は非常に自然な感じで普通の人よりも落ち着いているといったことでちょっと誤解があったと。発症のことを考えても自分とかけ離れた病気ではないのだなという意見がありました。それから当然ですけれども治療によって落ち着くことができる、普通と同じようになる。それからお話の中でなかなか病気がわからなくていろんな所をまわってようやく精神科的な問題だということがわかったということがあるんだということを知って、ああそんなものなんだという意見もありました。さらには、症状だけではなくて生活面で様々な困難を抱えていることがわかったという意見がありました。観た方の中に、実は自分のお母さんが統合失調症だけれどもずっと黙っていた。でも、「ああ、他の家族も同じように苦労しているんだ」ということがわかったと。やっぱりこういったような孤立して苦労していらっしゃる方がいらっしゃることがわかりました。

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大学生が考える「偏見を解消するには」ということで、わかりやすく伝えるとか実際の体験者の話を聞く、やっぱり学生ですから学校教育に取り上げなければだめだという意見がありました。メディアの取り上げ方に問題があるよなという意見もありました。難しそうな指摘ですけれども、偏見というのはなかなかなくならないから、偏見の解消を目的にするのではなくて、その存在を認めた上で環境を整えたほうがいいのではないか、あるいは精神疾患というのはさまざまなものがある、病状も違いますから一括りにしないで、少し違うものもあるんだということを主張したほうがいいのではないか。それから、これはなかなか厳しい指摘なのですけれども、関心のない方にとっては劇的でも面白くもないということで、関心のない人に観てもらうにはどうしたらいいか、そのようなご指摘があり、「なるほどな」と思いました。

●高校生の意見
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今度は高校生です。もっと若い方ですね。ちょうど観たビデオがこういう(スライド)ものだったので、非常に印象的だった。いじめの経験のある方は、気持ちがわかる気がしたとありました。ちょっと私もびっくりしたのですけれども、「まったくわからなかった」という感想もありました。つまり基礎知識、事前の知識がないものですから、こうインタビューばかりだとわからないというような意見がありました。一方でとってもよくわかってためになりましたと非常にさまざまな感想があることがわかりました。高校生がこれを観てわかったこととしては、今まで精神のことは何も知らなかった、どういうことかわかってすっきりしましたと。治るものだということを知らなかったんですね。それから昔、精神分裂病と言われていたことを知らなかった。もう高校生はそうなんですね。それから周りの協力とか理解が大事だということがわかりましたとか、そういうご意見がありました。

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「では偏見を解消するには」ということで、実は自分に偏見がありますというようなことを正直に書いてくださいました。「でも勇気を持って接しよう」と。やっぱりみんなに知ってもらうことが大事だという意見がありました。普通に接するとか、甘えということではないということ。「じゃあどうしたらいいか」ということですけれど、講演会や体験談ではだめという感想なんですね。どういう意味かといいますと、こうしてしまうと関心がある人しか来ないから授業にしなければだめだ、全員が聞くというようにしなければいけない、そんな感想がありました。それからこれもなかなかびっくりしたのですけれども、「偏見が多い病気だということがわかりました」という感想もあったんですね。偏見を持っていなかったけれどもお話を聞いて偏見がある病気であることがわかってしまったと。そこはやっぱりなかなか難しいことがわかりました。ですから偏見を持っている人は放っておいて、関心のある人を育てていくという方法があるのではないか、そういう指摘もありました。

●今回のアンケート以外の反応
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これは、家族会の方が書いてくださった(もので)、今のことと関係するのですけれども、世間に偏見があって家族のみで窮地を乗り越えることはあるのですけれども、当事者やご家族は、苦労しているとか偏見で辛い思いをしているということをつぶやくことでかえって別の偏見を広げてしまうと。統合失調症は大変な病気なんだ、偏見がある病気であるということを広げてしまうというふうな逆効果もありうるということを、ご自身で感じ取られるということなんですね。ですからそういうことのないようにニーズに見合ったサービス、支援が社会で実現すると、偏見を煽るようなことが減ってくる。自分達で偏見を作ってしまうということを減らせるのではないか、そんな文章もありました。これもたしかにそうだなと私は感心しております。

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こちらは先ほどの中村ユキさんが作ってくださった漫画ですけれども、社会人の方にこの漫画を読んでいただきました。その感想ですけれども、漫画を読んで、漫画はやっぱりいい方法だとか、でもうつ病との違いがよくわからないなとか…、やっぱり難しいですね。それからこういったことを公表するのは勇気がいるだろうなとか、やっぱり苦労とか苦悩にはなみなみならないものがあるということがわかりましたとか。それから治療によって改善する、それからこの漫画の最後にありますけれども人類の歴史の中で生まれてきたものだということがわかりましたといったような感想がありました。

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一般の方がどう観るか、その感想をまとめてみますと、やっぱり非常に当然ですけれども直接言葉を届けるという意義は非常に大きいということですね。これは一般の方にもそうですし、当事者・家族に対して勇気を伝えるメッセージになると。ただ受け止め方には個人差があって、元々どのぐらい関心があるか、あるいは接したことがあるかどうかによってずいぶん違うと。それから若い世代ほど、予備知識がなければいけない。何にもなしで体験を聞いてもらっただけではよくわからない。で、学校教育でも授業という形で全員に聞かせるべきだとの話がありました。それから劇的でも面白くもないものを関心のない人にどうやって観てもらうかという意見がありました。最後になりましたけれど、苦労や偏見を乗り越えたという経験を伝えることに逆のメッセージもあり得る、そのことを強調してしまうことで。苦労や偏見もなくて順調に経過した体験談などを広めるということも大事だということもわかってきました。

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こういったインターネットを利用した啓発で考えたいことですけれど、1つは良質の情報になかなかたどりつけない。情報が氾濫しています。「統合失調症」ということで検索すると最初のほうはひどいサイトばかりが出てくるそうです。ですから良質のサイトを紹介するサイト、そんなものが必要かもしれない。それから関心を持たなくても受け身でも情報が届くような学校教育ということを考えていかなければいけない。2つ目は、親近感が持てるとは限らない。情報が個別化されていませんから元々の関心や知識の程度によりますから、少なくとも一般向けの情報と若者向けの情報とを区別していく。あるいは追加の情報が得られる手立て。こういったものを考えていかなければいけないなということがわかってきました。それから伝えた後のフォローが難しいということで、先ほど夏苅さんの話にありましたけれども、「JPOP-VOICE」を観て勇気をもらう方もいらっしゃるのですけれど、一部に逆にショックを受けてしまうという方もいらっしゃる。そういった方の場合も含めて、このフォローを提供できる体制、こんなことを今後考えていかなければいけないというふうに考えております。

●まとめ

最後に、3人の方のいろんな発表を事前にお聞きして私が感じたことですけれど、「JPOP-VOICE」というのは、1つは当事者や家族が主体になって発信するアンチスティグマ。行政が行うアンチスティグマや組織が行うアンチスティグマではなくて、当事者や家族が主体となって発信するというようなことは、活動にとってのグラン・ジュテ。これは夏苅さんの本から頂戴しましたけれど、活動の1つの「飛躍」だろうと思います。

2つ目は一般のスティグマ、それから自らのスティグマということで、市民にとっては「顔が見える」、これが大事だと。どんな時でも顔が見えることによって一段と飛躍しますから、そのアンチスティグマの活動は大事だろうということがあります。それから当事者や家族や専門家は、じゃあちゃんとわかっているかというとそうでもなくて、やっぱり自分自身で気づいて再生して成長していくという意味がある。そういったことでも「JPOP-VOICE」は意義があると。

最後に3点目、これは野村さんがとくに強調しておられましたけれども、むしろ病気というようなこと、あるいは苦労を経験することによって、むしろ新たに知ることがある。生きる意味とか人生の価値とか社会のあり方ですね、こういった普遍的な理念を学ぶことによってそれを逆に一般の方に発信する。経験していないことがわからない方に発信する。そういった意味で人間の成長や社会の発展の理念を示す、発信するということがアンチスティグマになるんだというようなことも感じました。

3人の皆さんの発表には足りませんけれども、一般の方がどういうふうに受け止めているかということでご紹介させていただきました。ありがとうございました。

[司会] 野村さん:福田さん、ありがとうございました。適切なおまとめをいただきまして皆様いかがでしたでしょうか。それぞれの演者が述べた思いの中には今までに皆様がお聞きになったことがなかったことが内容としていろいろあったかと思います。それぞれの演者が述べたことをこれからも時々思い出して人生を歩んでいただきたいと思います。福田さんにまとめていただきましたが、現代の精神疾患へのスティグマに対して「JPOP-VOICE」のような媒体が新たな気づきを発信していくことは本当に大切なことではないでしょうか。これからもこの事業が本当に発展していかれることを心から願っております。どうも皆様ありがとうございました。失礼いたしました。

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