統合失調症と向き合う

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福田一夫さん
福田一夫さん
(ふくだ かずお)
1969年(昭和44年)生まれの45歳(収録時)。大学4年生の時に発症し、3回の入院を体験する。大学卒業後、就職するが病気の再燃により退職。その後、大学院に入り勉学に勤しみ、現在は清掃会社に勤務している。勉強することが好きで、日本経営学会の一員として経営学の研究をしたり、放送大学などで聴講している。一人暮らし。収録時、襟元には日光彫りのループタイが結ばれていた。
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14症状の安定
Q.症状が安定してきたと思われるのはいつ頃ですか

「修士課程で、修士論文をまとめる作業を通して、自分が郵政でいろいろ考えたこととか悩んだこととか、矛盾に思ったことを、そのまま書くということではなくて、本当に日本の経営思想の展開とか発展という流れの中で、正しい管理の方法とか、経営の方法は何かというようなことを見つけるというか、そういったことを探るみたいな感じにまとめていったのですね。

その時です、そのことを通じて自分自身の問題も整理していって、この郵政での問題を再燃しない、持ち出さないような人生にしていこうということで、決着をつけました。その過程で、うつ病がなくなっていく。で、当然統合失調症の症状、いろんなことも整理されていく。指導してくださった先生が常に言っていた、その学術的というフィルターが、自分の考えの歪みとかを、どこにでも通用できるような議論に修正してくれたのだと思っています。

現状に関してはいろんな人がいろんなことを言っているのです。まあ聞こえてきますけど、あまり気にしないと。ただ、言えることは郵政省の仕事というのは、自分が敷いたレールではなくて、当時の郵便局の管理者が敷いてくれたレールです。いろいろ考えて自分なりに走ってきたつもりですけども、それが限界にきて、現在の仕事に就いているわけです。

で、現在の仕事は大学時代にやり残したというか、成し遂げなかった就職活動をして、掴み取った結果なのです。だからはっきり言って、自分では、まだまだいろんな仕事に就けるとは思うことがありますけども、ま、それなりに自分で納得した結果だと思っています。」

Q.症状の安定を後押ししたものは?

「その要因としてはいろんなことがあるのですけども、福田がんばれよという感じで、いろいろな人が考えて行動してくれたこと。で、その思いに応えようという気持ちが無くならなかったこと。で、先ほど述べたように、自分の病気について、自分なりに真剣に考えて勉強して、自分なりの方法を見出していたこと。その中で、主治医とか、職場もそうだし、友達もそうだし、母親も、自分のやり方を最終的に認めてくれてやらせてくれたこと。そういうことが重なって、安定してきたのだと思います。

いちばん深刻だったのは、やはり肉親もいなくなって誰にも頼ることができなくなったという状況です。誰にも頼れないのだから、もう自分で立つしかない。当時、措置入院の時の主治医の先生が、『スパイラル的に悪くなってきましたよね』というひと言で、投げかけてくれた問題というのは、それまでの私の人生の歩き方、歩み方をすべて物語っていて。で、常にやっぱり、甘えているなんて気はまったくないのだけれど、やはり甘えていたのですね。だからその甘えが一切無くなったこと。で、『もう一人でやっていくんだ』と完全に決められたこと、これがやはり、病状を安定させていくとか回復に向かわせた最大の要因です。」

Q.症状が悪化しないように工夫していることはありますか

「今現在私がこうしていられるのは、今の会社が雇ってくれたことで、この仕事を毎日続けていくことが前提です。それで普段、挑戦しているということとか、あとは日常生活で美味しくものを食べて、よく寝て、よく遊んで、よく働いているというのが重要です。

私達精神障害者は発病と同時にそれまで思っていたことを諦めなくてはならないような感じに迫られてきて、事実そうきているのですね。私が、誹謗中傷を受けてきたのですけども、それに耐えてこられたというのははっきり言って、病状もありましたけども、自分の人生が余生に入っていたからなのですよね。どうでもいいってわけではないのですけども、余生だからすべて許せたということがあったのです。

そういう感じでやっていると、やはりこのように生きている死体みたいな生活になっていってしまって、22歳からそういうの(生活)に入っていくというのは、はっきり言って早すぎるのですね。平均余命から言って、60年とかそんな余生を送らなければならない。これははっきり言って人間の生活としては、かなり厳しいのですね。

で、50歳を目前に控えていまして、もう無駄にできる時間はありませんから、失敗を繰り返さないこと。そしてこの10年間に学んだことが、その後の人生に対して準備期間だったというように思えるようにしていかなかったら本当にいけない。そういうふうにできなかったら、本当に狂い死にみたいな感じで、笑われて終わってしまうのではないかと思っています。」

Q.現在の生活で気になっていることはありますか

「現在の生活で最も気になっていることは、健康とお金ですね。精神薬(抗精神病薬)を、23年以上飲んでいますね。やはり、腎機能、肝機能、そして、糖尿病と、いろいろ異常が出てきました。かつては、異常が出てもう10何年経つのですけども、数年前、5年間ぐらいは空白があって……。なぜかというとお金がなくて病院に行くのを止めていたのです。また行き出しているのですけども。健康不安が常につきまとうというような感じで、そういったものが出た時にどうやって治療していいかまったく目処がつかないのですね。

その他に、親の遺してくれた家だってもう43年経っていまして、どうやって維持していくかがものすごく課題です。」

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