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桜井なおみさん
桜井 なおみさん
(さくらい・なおみ)
キャンサーソリューションズ(株)代表取締役
1967年生まれ。乳がん体験者。現在、がんサバイバーとしてがん患者の就労支援に取り組む。2011年3月11日に発生した東日本大震災で被災したがん患者を支援するため、ツイッター仲間5人で4月にOne world プロジェクトを立ち上げ、ウィッグ、ケア帽子などの支援を開始。ブログ:Since37歳★New癌★Survivor
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1プロジェクトのはじまり

「震災発生後、『何か患者ができることはないかな』とすごく考えていたときに、東北大学病院化学療法センターの北村さんという薬剤師の方からたまたま電話をもらいました。普通の会話をして、最後に『何か足りない物はない?』とさりげなく聞いたのです。私はそのときに『お米』とか『水』とかそういう答えが来ると思っていたら、彼女が言うには『患者さんには、ただでさえ化学療法で不憫な思いをさせてしまっているのに、(震災後)さらに不憫な思いをさせてしまい、それは本当に悲しい。こんな時期に化学療法なんて受けたくないはずなのに』と言うのですね。私は少し驚いて『じゃ、何が足りないの?』と聞くと、要はいろいろ物資が届きはじめたけれど、『がん患者さんの生活を支える物がいっさい来ない』と言うのです。

たとえば1つ目はリンパ浮腫用のもの(弾性ストッキング等)。今年は冷え込みがひどくて衛生面の問題もあり、リンパ浮腫の方が非常に増えているそうで、いちどリンパ浮腫になってしまうと戻すのがたいへんなので、『なんとかできないかな』ということでした。

2つ目は、乳がんの術後専用のブラジャーです。下着というと思いつくのはパンツのようで『パンツはたくさん来る』けれど『上がこない』ということでした。乳がんの方は、放射線治療中は普通のブラジャーではワイヤーが痛かったりして、ぴりぴりしてしまうのです。術後すぐの方はソフトなブラジャーがほしいけれど、『乳がん術後専用のブラジャーなどは全く来ない』と。『それは確かに行かないだろうね』という話になりました。

3つ目は、『皆、ウィッグ(かつら)から、お財布から、とにかく何もかもすべて流されているのよ。頭髪がなくて避難所にも行けない人たちがいる。すごく肩身の狭い思いをしている人たちがいる』ということで、これはなんとかしたいと、もうシンプルに思いました。それですぐに『わかった。こまめに連絡をとろうよ』ということで電話を切りました。

そのとき私はツイッター仲間が4人ほどいて、患者さん2人と乳腺専門医2人と私の計5人で『なんとか東北の支援をしたいね』というグループはできていたので、そこにこの話を投げました。『じゃ、これはひとつみんなでがんばってやろうよ』ということになり、ワンワールド・プロジェクトがスタートしました。」

●物資の調達、費用の工面

「まず北村さんから聞き出した“必要な物”のリストの中で、買わなければいけない物が結構ありました。また、買わなくてもこれはたぶん患者さんが持っているのではないかという物もあり、それがウィッグとか、ケア帽子でした。ケア帽子はたぶん患者会の中で作っている方たちもいるはずなので、呼びかけをしようということで、ツイッターとか、フェイスブックとか、あとは個人のブログとか、そういうところでどんどん『お願いします』というメッセージを出していったのです。

一方、乳がん専用のブラジャーなどはやはり新品のほうがよいので、買わなくてはいけない。お金をどうしようとなったときに“これはもう、対がん協会さんにお願いしよう。こういうときに対がん協会さんに動いていただかないと、もう次はない”と思ったので、私のほうから思い切って事務局長に電話をしました。『こういう話が来たのですが、協力してもらえないでしょうか』とお話をして、現地の状況をお伝えしたのです。

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発送作業に集まったボランティアの方たち 前列左が佐治先生、その隣りが桜井さん(日本対がん協会のオフィスにて)
発送作業に集まった
ボランティアの方たち
(日本対がん協会のオフィスにて)
そうしたらもう翌日に『やりましょう。これは協会としても協力したいし、患者さんのためにぜひやらなくてはいけない』ということで、『全面協力しましょう』というお言葉をいただきました。本当に有難かったです。人はそういう思いでひとつにもなれるし、動いてくれる。『ワンワールド、いい名前じゃないか。それでいこう』ということで、物品もすべてグループのメンバーがいちばん安くしてくれるところをあちこち探して、サイズも集めて、ひとまず第1便を4月の末に送りました。」

●支援先を広げる

「この活動がたまたまメディアに取り上げられて、そこからがものすごくて、脱毛中にかぶれるようなケア帽子が約5000個、ウィッグが約1700個来てしまい、対がん協会からも『ものすごい数が来ている、毎日毎日来る』と悲鳴があがりました。

ちょうどゴールデンウィークをまたいでいて、届いた物をどうしようということになり、そこから本格的に皆で動きました。自分は個人的に福島県立医科大学の石田先生に、『実はこうなのだけれども、先生のところでニーズはないですか』とメールをお送りしたり、岩手医科大学の杉山先生にもお送りしたり、皆で個人的に動きました。あとチームの中に乳腺外科医の先生が2人(佐治重衡先生:埼玉医科大学国際医療センター腫瘍内科、谷野裕一先生:公立那賀病院 乳腺呼吸器外科医長)入ってらっしゃったので、その先生方が自分たちの個人的なつながりの中で、化学療法センターに連絡してくださり、『患者さんからこんなに支援の思いが来ている、受け取ってくれないだろうか』ということで、皆でお願いしました。

最初、発送先は3ヵ所でしたが、あれよあれよという間に2ヵ月間で19ヵ所まで広がり、今も少しずつ広がってきているというところです。」

●ひとりひとりの思い

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個人・団体・企業から寄贈されたウィッグ 3週間で約1700点が集まる
個人・団体・企業から
寄贈された ウィッグ
3週間で約1700点が集まる
ケア帽子 3週間で約5000点が集まる
ケア帽子
3週間で約5000点が集まる
「送られてきたウィッグは本当に新しい物も多かったです。『これいただいていいんですか?』というような立派なケースで送られてくるような物もありましたし、少し使ったという物もありました。それは個人の方、ご家族の方、たくさんの方からひとりひとりの思いで届けられました。

ケア帽子のほうは、余っている物を送っていただいたり、各患者会で作っていらっしゃる物を送っていただいたりしました。それは本来だったら、患者会の名前で現地に送ることもできると思うのですが、そうではなくて、このワンワールドという“個人や患者会の壁を越えてひとつミッションを果たそうよ”というところに参加してきてくれて、ケア帽子500個ぐらいをどんと送ってくださったりというのがありました。個人や患者会やいろんな皆さんが“患者さんのために”という、もうそこだけなのだなということをすごく感じました。」