「インターネット時代のアンチスティグマJPOP-VOICE」
森実恵さん ●森実恵さん
体験者。現在は作家、職業訓練センターの講師ほかで活動している
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[司会] 野村さん:このセミナーでは統合失調症の患者や家族の方々が出演しているウェブサイト「JPOP-VOICE」を通してインターネット時代のアンチスティグマ効果を考えていきたいと思います。最初は森実恵さんのご講演です。森さんは統合失調症を体験されて、現在は作家や職業訓練センターなどで講師として活動をしていらっしゃいます。森さんお願いします。

森さん:こんにちは。大阪で精神障害についての講演活動や文筆活動をしております森実恵と申します。

●症状について
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漫画 自画像

今日は、前半は統合失調症の症状についても説明をさせていただきたいと思います。これ(イラスト)は私が幻聴を聞きながらスーパーで買い物をしている時の様子になります。実物よりだいぶ可愛く描いてあります。さらに今より30歳ぐらい若い時の自画像ですね。

最初スーパーに入った時は、「今日の献立はお刺身、わけぎのぬた、もずくの酢の物、栗ご飯にしよう」と思って入ったのに、いろんな声が聞こえてきて、買い物がどんどんでたらめになっていっている様子です。こんなふうに声が聞こえてくることを思考吹入(しこうすいにゅう)と言います。患者さんの頭の中に自分の考えとは違う思考が吹き入れられる症状が出ています。その結果、もともとあった自分の考えが奪い取られてしまう考想奪取(こうそうだっしゅ)という症状が出ています。

「おさしみはO157が危ないからダメ」と言われてカレーにしようと思ったら、「カレーはコレステロール値が高くなるからダメよ」と言われて、野菜を買えとか果物が食べたいとか、次々と違う声が聞こえてきて、最後には「100万円のダイヤモンドの指輪を買いましょう」なんていう声が聞こえるんですが、そんな大金を私は持っておりませんのでその幻聴からは大丈夫でした。

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漫画 幻聴

次のイラストです。これは、「死ね死ね」という声が聞こえてきて自殺未遂をしてしまった時の様子です。

幻聴というと、一般的にはちょっと怖い声が聞こえるのではないかなというふうに思うかもしれないのですが、これはちょっと怖い声ですけれども、面白い声というのもあります。例えば“幻聴さん”が、「馬鹿の反対はなんだ」というので、私が頭の中で「馬鹿の反対は賢いかな?」と答えると幻聴さんが「バカの反対はカバでした。お前は本当のバーカ」とか言うわけですね。するとぷっと吹き出してしまって、周りの人から見るとなんで笑っているのかわからない、頭の中で一人漫才ができているような状態になります。そういう症状を空笑(くうしょう)と言います。この時、幻聴だけではなく幻視や体感幻覚、幻臭幻味と、幻覚がフルコースで揃っていました。あんまりおいしくないフルコースですけれども。

幻視というのは、実際はそこにないものが見える症状になります。これは部屋の中にお化けがいっぱいいて、ゲゲゲの鬼太郎の世界になってしまうのですね。水木しげると結婚した覚えもないのにいつのまにかゲゲゲの女房になっていたというわけです。肩の上に目玉親父が乗っかったような状態で仕事に行ったりしていました。ただ1回だけすごく素敵な幻視もありました。キムタク(SMAPの木村拓哉)がなんと横にぱっと現れてくれまして、さっと腕も組ませてもらって幻のデートをさせていただいたこともあります。

体感幻覚という症状ですが、これは体に感じる幻覚になります。これも友達から言われたのですが、「ジャニーズの山ピー(山下智久)とかタッキー(滝沢秀明)とか可愛いい男の子が現れて、『よしよし』と頭をなでてくれたりぎゅっと抱きしめてくれるんやったらいいんちゃうの」と言われたのですが、実際のところは気持ちがいいというよりは、女性であればちょっと化け物に襲われているような感じがする幻覚になります。

幻臭という症状は、「幻の臭い」と書きます。これは、においのもとがそこにないにもかかわらず、いろいろなもののにおいが漂ってくる症状です。これは焼きたてパン屋さんの匂いとかうなぎの蒲焼き屋さんの匂いとか、そういうおいしいものの匂いであれば大歓迎なんですが、やっぱり病気なのでどちらかというとちょっと気分が悪くなってしまうような変な臭いが漂ってくることが多いようです。

最後に幻味。「幻の味」と書く症状なのですが、口の中に食べ物が入っていないにもかかわらず、いろいろな味がする症状です。滅多に食べられないタラバガニとか松茸とかフグとかの味なら大歓迎ですね。タダでグルメが味わえる。そこまでいかなくても、ちょうどお昼時になったら鮭の塩焼きとかほうれん草のごま和えとか卵焼きとかお味噌汁の味が漂ってくる。そしたら白いご飯だけ用意しておかずは幻味で済ませておかず代節約とか、そういうこともできるのではないかと考えたのですが、なかなかうまくいかないですね。

私、大阪の人間なのでたこ焼きとかお好み焼きとか粉ものが好きなのですが、たこ焼きの味が24時間いつでも口の中で出せたらセルフサービスの無料のたこ焼き屋幻味屋が口の中で開店できるのになあと思ったのですが、それもなかなかうまくいかないですね。どちらかというとちょっと苦いような、毒みたいな味がすることが多いみたいです。患者さんはそういう味がすると「自分は毒をもられたのかな」というふうに勘違いしてしまう「被毒妄想」とかを抱いてしまうことがあります。

ですが、今は薬が良くなっていますので、統合失調症といっても昔のような廃人になるとか人格が崩壊してしまうということは少ないと思います。薬をちゃんと飲んでいけば寛解します。ただ私も未だ完治はしていませんで、幻聴など若干残ってはいるのですが、幻聴の声と現実の声を器用に分別しながら生活を送っているような状態になります。

●回復へ

最初、「JPOP-VOICEに出ませんか」と言われた時は、若干ちょっとひるみました。自信がないというか顔をさらして出て、私が一人出たとしても啓発活動になるんだろうかとかしばらく悩んだんですね。子どももいますので子どもに迷惑をかけたらどうしようとか迷っていた時もあります。でも、失敗することは恐いかもしれないですが、失敗を恐れてトライしないことはもっと恐いなと思ったんですね。自分が出たとしてもなんら変わることはないかもしれないけれども、捨て石になってもいいから1回やってみようかなと思って、結局、出演させていただくことになりました。

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漫画

本当に「七転び八起き」ではないですが、いろんな挫折もありました。私の場合は病気が原因で離婚になって失職もしてすべて失った状態でゼロからスタートしたのですが、今思うのは、人間は負けたら終わりというわけではない。やめたら終わりなのかな、というふうに思っています。何回失敗してもいい、また起き上がってやり直せばいい。その起き上がるということをやめてしまった時、本当の負けなのかもしれないなというふうに感じています。

それで今日の資料にもなっています読売新聞の連載ですが、それが1冊の本にまとめられまして、ちょっと宣伝になるのですが、『心の病をくぐり抜けて』というタイトルの本で岩波ブックレットから出版することができました。そしてこの連載を読んだ別の出版社の方からお電話をいただきまして、森実恵の半生記なのですが、『なんとかなるよ統合失調症』という本を出版することができました。本日1階の受付のほうで販売しておりますので、もし購入していただいて私をみかけたらサインもしますし、ご希望の方にはハグもしますので、ぜひぜひよろしくお願いいたします。私は大阪の人間なので東京に来たらちょっと違和感を感じることもあるんですが…。

最後に、エド・はるみ(お笑いタレント)のグーグーダンスで綴る、やや誇大妄想的な森実恵の半生を披露して終わらせていただきたいと思います。

「ああ、たとえ精神病になったとしても、いつかは持ちたい、グッチにプラダにルイヴィトン、グリーな欲望がバブリング、グルービーが追っかける作家になって、グラマラスな魅力も手に入れていつかは行きたいグリンデルワルド、ロンドンのディスコでダンシング、カーネギーホールでシンギング、夢はでっかくビッグネーム、あなたもグッ、私もグッ、それではみなさんグッバーイ!」ということでこの辺で終わりにしたいと思います。

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