「統合失調症は、もともと内因性精神障害という病気に分類されていて、脳の病態が存在すると予想はされるけれども、その実態が、調べる方法がなくてわかってこなかった、そういう病気に属しているんですね。
で、1990年代からテクノロジーの進歩でニューロイメージング、神経画像という方法が進歩してきたので、それに基づいて統合失調症の患者さんにご協力いただいて神経画像を撮らせていただくと、健常者の方と違いがあることが、次々にわかってきて、今では統合失調症の方に、脳の機能や脳の形、構造のほうの異常も存在することが明らかとなってきています。脳の部分では、前頭葉とか側頭葉といった認知機能ですね、物事を考えたり計画を立てて実行したりという社会生活に重要な部分の障害があるということが、ある程度、ニューロイメージングという方法なので目に見える形でわかってきているというのが、ここ20年ぐらいの成果なんですね。大きく言うと、そういうことが分かってきているということです。」
「ニューロイメージングを使って、統合失調症の方と健常者の方を比較するだけでは、どういう病態かはわかりますけれども直接治療にはつながらなかったのがこれまでの研究成果なわけです。
で、ここ5年か10年ぐらい、世界各国で、あるいは日本でも進められている研究というのは、お病気になられて間もない時期の患者さんにご協力いただいて、その方を1年とか2年とか経過を見させていただいて、何回もニューロイメージングの研究にご協力いただくことによって、その方の経過と脳の状態が関係するかどうかを、縦断的と言って、長期的に時間経過を見る研究が進んできて、それによって、お病気になられて間もない時期からちょっと経つと脳の病態も変化することがわかってきたんですね。それと、どういう治療を行うと脳の病態が進んだり進まなかったりするのかということが少しずつわかってきたので、じゃ、どういう治療を行えば脳の病態が進まなくて済んで、患者さんの社会的な機能状態が保たれたりあるいは回復したりするのかというところに、今、焦点が移ってきていて、ニューロイメージングの研究が実際の治療に役立つようになってきたのがここ5年ぐらいの状況です。」
「まず、治療薬によらず病気の転帰(病気の治療後の状態)に影響を与えるということから説明すると、お病気になられてから治療を受けるために医療機関にやってこられるまでの間を、まだ治療を受けてない期間、精神病未治療期間という概念があります。英語で言うとDUP(Duration of Untreated Psychosis)と呼ぶのですけども、その期間が長いと、その後のお薬への反応が悪いとか、あるいは予後が、社会的な機能レベルの予測が悪い方向に行ってしまうということが、いくつもの研究で知られています。そういう研究を総合すると、精神病未治療期間が長いと社会適応が悪いというのが、事実というか確実な所見としてあります。なので、どんな治療を行うにせよ、まず、お病気になられてから治療を開始するまでの期間が短ければ短いほどいいんですね。
で、各国のデータでは、精神病未治療期間というのはだいたい10数か月位なんですね。どの国でもだいたい一緒です。日本だと、ま、同じぐらいと言う方もいれば、ちょっと日本は長目だと、その偏見とかスティグマ(stigma)といったものが、社会にまだ存在しているので、お病気になられた方が医療機関を訪れるまでにちょっと敷居が高い可能性も言われています。だから、いかに未治療期間を短くするかが課題なので、まず社会の方に、精神疾患とは何かとか統合失調症とはどんなものなのかとかが理解されることや、あとは訪れやすい、医療機関の一歩手前の保健センターみたいなところが充実するのがまず第一歩です。
(医療機関を)訪れたあとに、どういう薬物療法がいいかということになるわけですけれども、それは今のところまだあまりわかってないのですけれども、昔から存在する抗精神病薬より、ここ10年20年出てきた非定型抗精神病薬のほうが患者さんの予後を保ったり回復したりするのに優位であるかもしれないというふうに言われているところだと思います。で、非定型抗精神病薬だけじゃなくても、いろいろな脳を保護する可能性のある物質が統合失調症の方にとっていいのではないかという研究が進められているところだと思います。」