統合失調症と向き合う

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コラム「なぞを追う」 夏苅郁子さん

第4回 才能は、天下の回りもの?(中編)

才能は、有難い?

前篇に続き、TEDという番組のお話です。

次に面白かったのは、エリザベス・ギルバートという作家のお話でした。

 『食べて、祈って、恋をして』(ランダムハウス講談社、訳 那波かおり、2009年)という本の作者です。この本はジュリア・ロバーツ主演で映画化され、700万部という驚異的なベストセラーになりました。離婚して、さらに新しい恋にも破れた主人公が1年間、自らを探す旅に出る、という内容です。30代前後の女性が等身大に描かれ、同世代の圧倒的な共感を得ました。

それまでまったくの無名作家だった彼女は、この本により一躍世界的に有名になったのです。

しかし番組のテーマは、この代表作の話ではなく「有名になった後のプレッシャーを、どう克服するか」でした。

彼女は「本を書く時は、いつも苦しみながら書いている」と言っています。 けっして、持って生まれた才能やひらめきではないと述べています。

でも、彼女によると、時には「文学の神様」が気まぐれに降りてくることがあるそうです。

彼女は、ある著名な詩人の名をあげ、彼の制作過程の話を披露しました。

詩人は、なかなか良い言葉が浮かばず、何日も何日も頭を抱え絶望的な日々を過ごし、ついには「自分には、才能がない。もう、詩を書くのはやめよう!」と決心したそうです。

その時、ふと窓から外を見ると、猛烈な勢いでこっちに向かって翔けてくる「詩の神様」の姿が見えました。あまりに猛スピードで、恐怖を感じたほどだったそうです。「詩の神様」は、窓から「どすん」と家に飛び込むと、勝手に彼の原稿用紙の上を走り回り、また猛スピードで窓から出て行こうとしました。

彼は慌てて「詩の神様」を追いかけ、かろうじてその尻尾を掴むことができたのですが、神様はするりと彼の手を抜けて逃げて行ってしまいました。

尻尾を掴んだ時、神様はひっくり返ってしまい、ひっくり返ったまま彼の家から出て行きました。

あとで彼が原稿用紙を見ると、神様が書いた詩が残っていましたが、後半の字は上下「さかさま」になっていました。さかさまにひっくり返った神様が書いたからです。

私はこの話を聞いていて、インスピレーションやひらめきとは、こういうものかもしれないと思いました。

ちょっと目線を変えてあきらめかけた頃、冗談のように「窓から飛び込んでくる」ものがあると思うのです。

「だから」と、エリザベートは言葉を締めくくりました。

「私は、次回はこれ以上の作品を書かなくては、というプレッシャーはないのです。なぜなら、前作は、たまたま「小説の神様」が私の部屋を訪ねてくれたのだと思っています。髪をかきむしり、何日も原稿用紙と格闘していると、ふと神様がやってくることがあるのです。私は、それは自分の力だとは思っていません。ほんの少しの間、「小説の神様」の力を借りることができたのだと思っています。」

彼女は、才能は自分のものではなく「天下の回りもの」と思っているのですね。

NHKスーパープレゼンテーション