コラム「なぞを追う」夏苅郁子さん 「才能は、天下の回りもの?(中編)」
都はるみさん
都はるみさん、という演歌歌手がいます。
「あんこ椿は恋の花」でデビューした彼女の「唸り節」は、強烈な印象でした。彼女が、何かのインタビューで「デビューして、一時引退するまでの間、歌を歌いだすと必ず左肩にちょこんと「歌の神様」が乗るんです」と打ち明けていました。しかし、不思議なことにカムバックしてからは、歌を歌っても「歌の神様」は出てこなくなったそうです。
都はるみさんは、がっかりしたかというとそうでもなく、「あの頃の左肩は、私にはすごく重かったんです。だから今は、楽しんで歌っています」と言っていました。
多くの人の心に届く何かを生み出すのは、本当に身を削る作業なのだと思います。そしてその選択権は、人間にはないように思えます。
「どうしようかな、やろうかな、やめようかな」と言えるようなものではなく、もっと鬼気迫った感覚が人の心を動かすように思えます。