コラム「なぞを追う」夏苅郁子さん 「才能は、天下の回りもの?(中編)」
松本人志さん
今度は、お笑い芸人さんのお話です。「これぞ、芸!」と感心した人がいました。
ダウンタウンというコンビの一人の、松本人志さんです。
私が見た番組ではコンビではなく「1人コント」をやっていました。設定は「ある雨の日のこと、朝、妻と喧嘩をした夫は帰宅して鍵を忘れたことに気づき、怒って家に入れてくれない妻へ、玄関の外で懇願する」といった内容です。
たったこれだけのことを、30分間、1人で、しかも背景はまったく変わらない中でコントをしたのですが、私は30分間、笑いっぱなしでした。
松本さんの表情や体全体の動きが実に多彩で、何人もの出演者がいるように見えて面白く、そのうえ外に放り出された「男の哀愁」まで伝わってきて、一遍の映画のようでした。
それまで、松本さんはどちらかと言うと、バラエティー番組でギャグを飛ばしている軽い人、というイメージだったのですが、ここまで来るとコントも立派な芸術だと感心しました。
そして人間の表現力の多様さにも、驚きました。
彼の本音は分かりませんが、何か「覚悟」のようなものを感じました。彼は「芸の神様」と、逃げられる・乗っ取られるといった関係ではなく、平等の立場で相対しているように思えました。
きっと、いろいろな苦労や経験をされて、「芸の神様」と渡り合う覚悟を持たれたからではないかと想像しています。
また、「芸の神様」はきっと、彼の所から他の芸人さんの所へお散歩もしてくるのでしょうが、それも松本さんは承知しているように思います。
「才能の神様」は大変気まぐれで、けっして独り占めできないものなのです。
お笑い芸人の松本ハウスさんが、統合失調症の闘病体験を綴った本を出版されました。加賀谷さんはこれから、この厳しい芸人の世界で生きて行かれると思いますが、心から応援したいです。
少し贔屓(ひいき)ですが、「芸の神様」が加賀谷さんの所には、ちょっと長く滞在してくれればいいなぁ、と思っています。