コラム「なぞを追う」夏苅郁子さん 「故郷を離れる相(前編)」
故郷を離れる相
その母が私の手相を観て「お前は、故郷を離れる相をしている」とよく言っていた。
たしかに、生命線の先が大きく2つに分かれており、これは典型的な故郷を離れる相である。
考えてみると私は、生まれは札幌だが実際には数年間しか札幌には住んだことはなく、その後釧路・京都・千葉・東京・熊本・静岡・アメリカと転居を繰り返し、どこが故郷なのか自分でも判然としない。
その上、医学生時代には何かから逃げるようにイギリス・スペイン・フランス・マレーシアを放浪したことがある。若い女一人でそんなことをして、よく事件に巻き込まれなかったものだと思う。
今でも根無し草のような気持ちには変わりがないが、さすがにこの年になると疲れてきて、一つ所に落ち着きたいなぁと願い、ふとわが手を眺めてみるが、やはり生命線は大きく2つに分かれている。
自分はどこへ向かっていくのだろうかと、ぼんやり考えるが、でもやはり、未来は神様だけが知っているほうがいいのだと、つくづく思った。
だから、私は手相観から足を洗った。