コラム「なぞを追う」夏苅郁子さん 「故郷を離れる相(前編)」
私が、手相観をやめた他の理由
医大祭で大儲けするほど流行った私の手相観だったが、ピタリとやめた理由は他にもある。
100人近くの手相を観ていたら、母が精神科病院に再入院する直前に「凄くいい線が出てきた」と、喜んでいた場面を突然思い出した。母にとって精神科病院への入院が良いことであるはずがなく、やっぱり未来はどんな手段を使っても、事前に知ることはできないものだと思った。
観る本人がそう思っているのに、人様の手相を観るのが申し訳なくなったのだ。
先日、母の手帳が見つかった。母は手帳に何でも記録していた。
驚いたことに、母は時々お金をもらってお客さんの手相を観ていたことがあるらしい。
手帳に「○月○日、手相、男、3000円」などと書いてあり、私は仰天した。
未開発諸国では、統合失調症の人と思われる人がシャーマンのような役割を果たして、種族の長老に未来についての予言を告げていたりする。
母の鬼女のごとき尋常ならざる風貌は、占い師としては奇妙に合っていたのかもしれない。