コラム「なぞを追う」 夏苅郁子さん
第7回 故郷を離れる相(後編)
木下大サーカス
今年(2014年)の元旦、静岡に来ていた木下大サーカスの公演へ家族で行ってきた。
このサーカスには、特別な思い入れがある。
小学生の頃、札幌に住んでいたが、そこに木下大サーカスがやってきた。たまたま、誰かがサーカスの切符を2枚くれた。40年以上前の話だが、木下大サーカスはその頃から全国を巡業していた。
「将来は獣医になりたい」と夢見ていたほど動物が大好きだった私は歓喜して、行くのをとても楽しみにしていた。
切符は2枚あった。小学生だった私は、当然誰か大人が連れて行ってくれるものと思っていた。
しかし、父は別宅に入りびたりでいつ帰ってくるか分からず、母は人混みが大嫌いな人だったので「お前、行きたいなら1人で行っておいで」と、取り付く島もない。親戚付き合いもないので、結局1人で行くしかなかった。
サーカス小屋の入口で切符切りのおじさんから「お嬢ちゃん、1人で来たの?」と不審がられた。そんなことは言われ慣れていたので平気だったが、中に入ると家族連ればかり、子ども1人で来ているのは自分だけで、さすがに心細かった。
隣の席が1つポッカリ空いて、そのすぐ横では一家で来ていた子どもが母親に甘えて何かをねだっていた。
その甘え方が無性に憎らしくて、羨ましかった。
ピエロや空中ブランコなどが次々と繰り広げるショーや動物の芸は楽しかったけれども、哀愁を帯びたバックミュージックと共に、サーカスと聞くと「寂しかった」という思い出が蘇ってくる。