統合失調症と向き合う

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コラム「なぞを追う」 夏苅郁子さん

第12回 7つの金貨(前編)

お金持ちになるには?

数年前、財政難の大阪府に数億円のお金をポン!と寄付した初老のご婦人がいた。

かなり話題になり、その方を取材した新聞記者がこう聞いた。「お金持ちになるには、どうすればいいですか?」。その答えは「お金を使わないことです」だったそうだ。なんとも気が抜けるお返事である。

たしかにお金を使わなければ減ることはないから貯まるだろうが、それではこの人がポン!と府に寄付した数億円は何だったのだろう?

大変な散財ではないか、と私は思った。

どうやらお金は使い方によって、「無駄使い」にも「使ってこそ生きる金」にも「縁を結ぶ金」にもなるらしい。

お金持ちになるには、こうした使い分けができる「ある種のコツ」が必要なのだと、お金持ちになれない私は確信した。

私の母方の祖父は、いわゆる「金貸し」だった。

「高利」貸しだったかどうかは分からないが、一人娘の私の母にもたった一人の孫だった私にも、えらくケチだったのはよく憶えている。

母のカルテを取り寄せたり親戚から母の若い頃の話を聞いたり「母調べ」をしていたら、昔の写真が1枚もない私を気の毒がって、従姉弟が家にあった私の両親の結婚式の写真をくれた。

花嫁・花婿を取り囲んで両家一同で撮った記念写真を見て、私は「あっ」と思った。モ−ニングと留袖の集団の中で、一人普通の背広を着ていた祖父を見つけたからだ。

あの祖父なら、やりそうなことだと思った。礼服を借りるのをケチっていたのかどうかは分からないが、そうだったとしても不思議ではないと思える祖父だった。

小さい頃、祖父宅に遊びに行くと、祖父はいつも茶の間で険しい目つきをして座っていた。私の「金貸し」のイメージは、この祖父によるところが大きい。