統合失調症と向き合う

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コラム「なぞを追う」夏苅郁子さん 「7つの金貨(前編)

ヤミ金融の世界

有名なシェイクスピアの『ヴェニスの商人』では、貸金を返済することができなくなった場合、主人公の親友である商人アントーニオの肉を削がなければならないという、高利貸の冷酷非道さを強調した描写がなされている。高利貸の人物の名はシャイロック (Shylock) であるが、英語では俗に無慈悲な高利貸を指して shylock という言い回しが使われるようにもなったという。

祖父やシャイロックのように、一般的には金貸しはろくなイメージはないが、それがヤミ金融ともなれば、なおさらである。

そんな私の「ヤミ金」観を覆したのが、トキタセイジ著『路地裏拝金エレジー』という本だった。

消費者金融から街金、ヤミ金と渡り歩いた40代の男性の実話である。

読んでみると、想像はしていたものの暴利に仰天する。

10日で1割はまだマシで、借金したその日から3割という悲惨な例もあるそうだ。シャイロックのように肉は削がないまでも、骨まで持っていかれそうな借金地獄の有様が淡々と書かれている。

そうした世界で生きている著者は、ヤミ金の世界を「クズどもの寄せ集め」と突き放す一方で、読者に向って真っ向からこう問いただす。「これが善か悪かと言えば、もちろん悪だ。しかし、世の中が善と悪の二色だけで色分けできるほど単純じゃないことくらい、アンタだって分かるだろ?」

う〜ん、なるほど……、体を張って生き抜いてきた人の「真面目な言葉」だと私は思った。いつも苦虫を噛み潰したような顔をしていた祖父の胸の内が、少し分かったような気がした。

ヤミ金でお金を借りる人は、自分の意志で借りている。そうした自転車操業のような刹那的な生き方しかできない人を不幸だと思うのは、違う生き方しかしてこなかった人間の決めつけかもしれないと思う。

「お金持ちって何だろう」……、お金持ちではない私は想像する。