コラム「なぞを追う」 夏苅郁子さん
第15回 「氏より育ち」か「血は争えぬ」か……(後編)
ディカプリオさん
引き続き、進化のお話を……
ハチにそっくりな姿の蛾(ガ)がいる。写真で見たが、本当にハチに見えた。飛び方や触角の動かし方もハチのようになるそうだ。チョウが葉っぱのように見えれば、葉っぱの細部まで見事に表現されているばかりでなく、虫食い穴を擬態する模様まで入っているという。
ダーウィンの「自然選択」では、模倣的な外観は生存において意味があるが模倣的な振る舞いまでは意味付けができない。生存に有利であるといった実利的な原理を超えた「自然」の神秘があるらしい。
話は変わるが、映画『タイタニック』で一躍有名になったレオナルド・ディカプリオという俳優さんがいる。昨年のアカデミー主演男優賞を受賞した人だが、役作りには熱心な人らしい。
彼は、ある映画で大富豪のハワード・ヒューズを演じた。
極端なお金持ちには極端すぎる故の苦労があるようで、ヒューズは強迫性障害だったという。ディカプリオは役作りのために精神科病院で2か月間患者さんらと過ごしたが、撮影が終わった時には役から抜けられず、すっかり病気になってしまい精神科に通院した。
ディカプリオをハチに似た蛾に見立てては失礼だが、外観をそっくりにするために振る舞いまでそっくりにさせていた彼だが、振る舞いを模倣し続けると外観もそっくりとなり、果ては内面もそっくりになったのだろうか。いくらなんでも、ハチを真似した蛾は、ハチそのものにはならないが。