コラム「なぞを追う」夏苅郁子さん 「動物、大好き!(前編)」
カラス流渡世術
漫画家の中村ユキさんが、「黒いトモダチ」という題の文章をブログに書いていた。ユキさんは自然がまだ壊されていない(つまり、すごく辺鄙)地域に住んでいて、いろんな生き物が近くに寄ってくるそうだ。
いつも見かけるハシボソカラスに「かぁかぁかぁかぁ」と私が鳴くと、「あら?あんたカラス語はなせるの?」とでもいうように、 頭上の小枝に飛んできて、不思議そうに私を観察してきた。その距離2メートル。用心深い彼らにしては、かなり近づいてきたものだ。 嬉しくなって、いつものように「こんにちは!」と手を振ると、「な〜んだ」とでも いう風に、飛び立ってしまった
カラスの物まねをしているユキさんを想像して吹き出してしまったが、ユキさんの気持ちがよく分かる。
ドリトル先生みたいに動物語が話せて彼らと自由に会話ができたら、人生はきっと何百倍も素晴らしくなるのに……といつも思う。
ユキさんはいつかカラスとトモダチになりたいと、カラスのことを調べるうちに見つけた「カラスの教科書」という本をブログで紹介している。
生き物なら何でも大好きな私は、早速買って読んでみた。
この本が、また凄い!
著者は松原始さんという京都大学理学部卒のたいへんな学者さんだが、「カラスに燃え、カラスに萌えるカラス馬鹿一代」と自己紹介されている。専門は動物行動学だが、仕事のためカラスを見ているのではなく趣味が高じて仕事になったような方である。
「カラスに関するQ&A」には、「へぇ〜」と思うこと満載なので、ぜひ皆さんも一読を!白黒のツートンカラーのカラスもいること(一回、見てみたい!)、残飯のキンピラゴボウを食べたカラスが水たまりでくちばしを洗っていたなど、カラスさんに親近感を持つエピソードが、松原さんの愛情あふれる観察眼で書かれている。
巻末に、カラス流渡世術として以下のような文がある。
「カラスの特徴は、特殊化していないことだと思う。絵に描いてみると分かるがカラスのシルエットは非常に基本的なトリの形をしていて明快な特徴がない。(中略)包丁で言えば、「これ」1本でだいたい間に合う万能包丁である。何でも一応出来ると言うことは「潰し」が効くということで、どんな場所でも何を餌とする場合もソコソコの成功を収めることができそうな戦略である。」
生物の進化にも、カラスのような敢えて得意科目を作らない60点主義の進化も有り得るという内容は、うつで悩む方々に読んで聞かせたくなる立派な認知行動療法である。
明日から、私もユキさんのようにカラスを見たら「かぁかぁかぁ」と鳴いてみよう!目が合ったら、最高に嬉しいな!