がんと向き合う

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藤井文雄 さん
(ふじい・ふみお)
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香川県出身。59歳(1999年)のとき会社の人間ドックで直腸がん(前がん状態)が見つかる。開腹手術を受け、ストーマを造設。3年後、原発性の前立腺がん(ステージT3a)が見つかり、ホルモン治療後、粒子線治療を受ける。現在は副作用を経過観察。2001年より日本オストミー協会兵庫県支部幹事、ピアサポーターとしてオストメイトの相談にのる。趣味は四国などの山歩きと読書(好きな吉村昭、司馬遼太郎はすべて読了)。
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6四国を歩く

「私はストーマを作ったあとも、ストーマ・ケアと排泄の処理以外は、前と同じ生活ができると考えていますから、その見本のためにも、以前と同じ生活を実行しているんです。

ストーマを作る前は、東海道五十三次を京都から歩いていて、静岡あたりでストーマを作ったんですけど、治って3ヵ月してからまた歩き始め、東京まで歩きました。あと東海自然歩道、熊野古道、四国八十八箇所も歩きました。ストーマ・ケアの失敗もたくさんあるんですが、何でもできるということです。」

●旅の途上でイレウスになる

「(四国八十八箇所を歩いていて)足摺岬のだいぶ手前で、イレウスになりました。地元の病院に救急車で運ばれて、3日間入院しました。

そのとき、外科の先生はたいへん親身になって手当てしてくれたんですけど、『ひとりで八十八箇所なんかして。山の中でこんなことになったらどうなるんや、命がない』とすごく叱られました。そのときに『八十八箇所のお遍路さんいうのは、先生、そんなもんなんですよ。山の中で行き倒れになったらそのままで、せいぜいあとで歩く人が石ころでも積んでくれるぐらいで、それで当たり前なんです・・・』と心の中では思ったんですけど。なにせ命が惜しくて救急車で運ばれたぐらいですから、そんなことは言えませんでした。」

●祖母からの言い伝え

「子供のときからおばあさんが『お遍路というのは、はよ行ったらあかん。若いときに行くもんやない。もうそろそろという頃になって行くもんや』という話をしていました。自分が実際、半分ほど歩いてわかったのは、『なんでおばあさんがそんなことを言うてたか』ということです。早くから行くと八十八箇所を全部回っても止まらないんですね。『また行きたくなる』、『また行きたくなる』で、家の仕事がおろそかになってしまいますから。もう『ゆっくりしたときに行ったらいい』ということですね。ですから私も香川県出身ですから、50歳ぐらいのときからお遍路に行く支度はしていたんです。少しずつ用意はしていたんですけども、実際歩き出したのは10年以上あとですね。」

●ウォーキング感覚で巡る

「四国八十八箇所に行くことはずっと思っていたんですけども、おばあさんの家は真言宗ではなく浄土真宗で全く違うし、宗教自体も私は信心していませんから、いわゆるウォーキング感覚でずっと歩いてたんですね。

歩いている道中でお接待というのがあるんです。ちょっと呼び止められて、みかんをくれてみたり、何かお菓子をくれてみたり、干し柿をくれてみたり、そういうお接待をしてくれる。

それから、歩いている途中で偶然、不思議なことがいろいろ起こってくるわけなんです。たとえば畑をずっと歩いて行って、地図を見ると回り道をしているので『近道ができそうやな』と思って畑の中に入ってあぜ道をずっと行く。するとどこからともなくおばあさんが出てきて、『これまっすぐ行くと、その先に溝があって、絶対渡れませんよ。こっちの道を行きなさい』と。『あれ!こんな人、誰も畑にいなかったのに、急に出てきた』とかね。

しまいにはやっぱりそういう人は、弘法大師さんが姿を変えて、私の前を現れてきたというふうに自然に思われてくるわけですね。ずっとひとりで歩いていて、全然しゃべりませんからね。だから『昨日はお大師さん、何回来てくれましたね』とか、『今日はまだやね』とかひとりでぶつぶつしゃべりながら、歩いてるんですよ。

“同行二人”というのがありますね。全くそれなんです。自然とお大師さんと一緒に歩いているんですよ。やっぱり周りの風景とか、人と会うとか、そういうので自然にそういう気持ちになってきて。ですから(お遍路に)何回か行ったり来たりしているうちに、お大師さんに会うのが楽しみになってきて歩いてみたりね。そういうことをいろんな人が経験さしてくれると思って歩いていました。」

●旅先でのストーマ・ケア

「私の場合、たとえば徳島の田舎を歩いていて1日の行程を終えると、バスで市内に戻ってビジネスホテルに泊まります。あくる日また同じところまでバスで行って、そこから歩き出す。とにかくストーマ装具を替えるのは、匂いがしたりしますから人のいるところでは絶対にできませんし、お湯とか水がいるので、できるだけビジネスホテルへ行く。そういう不便さはあります。

それからもうひとつの条件として、民宿でも個室が確保できて、なおかつ洋式トイレがあるところですね。和式トイレでできないことはないんですけど、非常に苦労しますから。それも事前に泊まる民宿に電話して『洋式トイレはありますか』と聞いてから行ってました。案外きっちりと教えてくれて、ほとんど洋式トイレはありました。」