コラム「なぞを追う」夏苅郁子さん 「時間を超えて、歴史に遊ぶ(後編)」
人間は、時間と重力には逆らえないのか?
世の中高年の女性達は美容にお化粧にと熱心で、必死にシワ予防のマッサージをしている。
「人間は時間と重力には逆らえないのだから、どんなに懸命にマッサージをしても老化現象は止められませんよ」と、きわめて残酷な物言いをする学者さんがいた。
確かに、「時間と重力」は“生老病死”につながる手ごわい現実である。
子どもの頃に観て鮮明に憶えているテレビ番組に、「タイムトンネル」というのがあった。他の似たような番組のいかにも偽物っぽい設定とは違って、時間のトンネルの中を通り古代や未来へ旅行する話は、本当にありそうな話に見えて小学生だった私を夢中にさせた。
私は、母の目を盗んで古典小説を読みながら、頭の中はタイムトンネルを通って中世の雅の世界を浮遊する子どもだった。現実の私の住む家の中は、雅の世界どころかゴミ屋敷でいつも一人ぼっちで寂しかったが、空想の世界では十分豊かに生きていられた。
想像力は、私のかけがえのない友人だった。
極限状態に置かれた人間が、肉体はボロボロになっても精神的に保っていられるのは、絶望的な現実の向こう側に希望に満ちた未来を思い描くことができるからだと思う。
想像力は、時間と重力という手ごわい現実に対抗できる、人間の素晴らしい知恵である。