がんと向き合う

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横井 麻珠美 さん
(よこい・ますみ)
1997年4月より癌研有明病院に勤務(当時は癌研究会附属病院)。特にがん化学療法看護に深くたずさわりたいという思いが強く、入職以来、化学療法に関連する部署に所属。近年、入院期間が短縮され、外来治療に移行している医療の現状から、外来で通院される患者さんの看護を大切にしたいと考えている。
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2自分でできる副作用対策
 h. 皮膚障害対策

「大腸がんの場合は、最近、皮膚障害が出るお薬が出てきていますので、皮膚障害に対するスキンケアが重要になってきています。

患者さんにとってはその皮膚障害が出ていることはつらいのですが、出ていることはそのお薬が効いているということでもあるので、たぶん患者さんはとても複雑な思いをされているのではないかと思います。」

Q.どのような症状があるでしょうか?

「見た感じにきびみたいな皮疹が顔に出る場合とか、全身の皮膚、たとえば汗をかきやすい部分によく出ると言われているので、頭皮とか、胸の辺り、背中に皮疹が出ることがあります。あとは長期に使っていくと爪が食い込んできたり、逆に爪が少し浮いてくるという爪の症状が出たりもします。あとは全体的に皮膚が乾燥しやすくなりますので、かゆみが出てくるというような症状を繰り返す副作用が、特徴的になっています。」

●皮膚障害を予防する方法

「これも予防から始まりますが、保湿と、保清(ホセイ)つまり皮膚の清潔、あとは紫外線などからの皮膚の保護の3つが、スキンケアの基本になります。それを日常生活に合わせて具体的に指導していくようにしています。

スキンケアの基本
保湿・保清・保護

特に最近、大腸がんで使われているセツキシマブというお薬ですとか、これから発売されるパニツムマブというお薬は、特に皮膚障害が強く出ますので、患者さんにスキンケアを自分でしてもらえるように特に強調して伝えています。」

① 皮膚を紫外線からまもる

「紫外線を浴びることで、たとえば色素沈着がひどくなりますし、乾燥が増強されて皮膚のかゆみが強く出たりします。たとえば身体全体の皮膚が少し黒っぽくなってくるとか、爪がちょっと黒ずんでくるというような症状です。特に日焼けしやすい方は、抗がん剤を使っていくとさらに日焼けしやすくなってきますので、日焼け止めをしっかりと塗っていただくように説明しています。あとは日傘を差したり、帽子やサングラスをかけていただく、長袖のカーディガンを着ていただく、あとはなるべく直射日光に当たらないように日陰をなるべく歩いてもらうというようになります。」

② 皮膚を清潔に保つ

「基本的にはお風呂に入るか、シャワーを浴びていただくことで皮膚を清潔に保っていただければと思います。ただ患者さんは身体がだるくなってくるとついついお風呂に入らなくなり、お風呂も2〜3日に1度という方も多分いらっしゃると思います。じっとしていても汗はかきますので、とにかく身体をきれいにしてもらうことが大事です。お風呂につからなくても1日1回はさっとシャワーを浴びていただくことが大事になってくると思います。

シャワーもあまり熱い温度ですと、余計乾燥が強く刺激もあるので、ぬるま湯がいいと思います。お風呂から出たらすぐに皮膚の乾燥は始まっているので、乾燥を防ぐために、できたら5分〜10分ぐらいの間にすみやかに化粧水や保湿剤を塗っていただくように説明しています。」

③ 皮膚を保湿する

「(副作用で)乾燥が強くなると言いましたが、それを予防するために保湿剤を塗ってもらったり、そうした挫創様(ざそうよう)皮疹が顔や体に出たときにはステロイド軟膏を塗っていただいたりもしています。そういうお薬をとるという意味でも、シャワーは浴びてもらったほうがいいと思います。体をきれいにしたところにお薬を塗るということが大事ですので、そういう意味では身体の『清潔』と『保湿』は結びついていると思います。

保湿剤は1日のうち、朝と晩とにつけてもらうように指導しています。1日1回は(どちらかというと夕方に)シャワーを浴びていただいて、皮膚がきれいになっているところに保湿剤を塗ってもらうようにしています。

保湿剤は全身に塗っていただくのがよいと思います。やはり全身が乾燥しますので、顔に塗ってもらう保湿クリームと、身体に塗ってもらう保湿クリームを当院では分けて出しています。」

●保湿剤の塗り方(スタンプ式)

「これは軟膏を塗るときの量の目安ですが、人差し指の第一関節から指先までクリームを出していただくと、この量が手のひら2枚分になります。私たちはハンドクリームを手に塗るときにここまでつけていないと思いますし、塗るときもこすって塗る習慣があると思いますが、やはり皮膚障害が起きている方はかなり皮膚が弱くなって、バリア機能が低下していますので、塗るときにも、点々とつけていただいて、指先または手のひらで押さえて塗っていただくというのが、皮膚に刺激を与えずにムラなく適量を塗ることができる、ひとつの方法と言われています。

クリームは広く薄くよく延ばすという習慣が私たちはあるので、どうしてもこすってしまうのですが、『こする』ということがいちばん皮膚によくないので、『スタンプ式』と言われているのですが、押して優しく塗っていただくのがいちばん刺激のない塗り方だと思います。」

Q.顔に塗る場合は?

「顔の場合は、たとえば挫創が出ているところだけにステロイドを塗るのであれば、ピンポイントに塗るだけでよいと思います。皮膚の上に乗せるような感覚で、こすらずに乗せていただくのがよいのではないかと思います。」

Q.化粧はしてもよいでしょうか?

「(化粧をしてよいかどうかは)まず医師に聞いていただくというのがひとつだと思います。あとは状況によりますので、たとえば病院に行くときにどうしてもお化粧をして行きたいとか、外出するときに化粧をして行きたいというときは、なるべく短時間でしていただいて、あとはすぐに落としていただくようにしています。少し膿(うみ)をもっているようなときは『刺激を与えるので、なるべくお化粧はやめてください』というふうにしています。」

Q.化粧を落とすときは?

「クレンジングも、オイルは刺激が強いと言われているので、オイル以外のものを使っていただくように話しています。」

Q.洗顔するときの注意点は?

「石鹸もたぶん今まで使っているもので『ひりひりする』という刺激がなければ、その石鹸を継続していただいて構わないので、あとは洗顔するときによく泡立てていただいて、泡で汚れを落とすような感覚で洗っていただくと、刺激がなく洗えると思います。それは身体も同じです。最近、泡立てネットというものも売っていますので、そういうものでよく泡立ててもらい、たっぷりの泡で落とすという感覚がいちばんよいと思います。

あとは泡立てネットではなくても、たとえば何か野菜が入っているようなネットでも代用できると聞いたことがあるので、そういうもので十分だと思います。ナイロンのタオルなどはとても刺激が強いので、絶対にやめていただいています。」