がんと向き合う

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武藤 勇 さん
(むとう・いさむ)
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岡山県出身。41歳(1986年)のとき家族性大腸ポリポーシスによる大腸がんと診断され、大腸を全摘出、ストーマ(人工肛門)を小腸に造設。60歳でガソリンスタンドの経営を退き、人生を探す旅を開始。2010年旅先の北海道で感じた思いから、牧師になることを決意。自宅を「フリースペース風曜日」として開放、お年寄りから若い人まで多くの人が交流する場となり、自身の使命を追求する毎日。
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10毎日が手探り

「私は病気を通して、いろんなことを勉強してきて、神様から問いかけを受けている。それが何なのか、今どう生きたらいいかを手探りしている。とにかくそんなに多くの時間はないことを感じて、『今しかない。限られた時間をどう生きるか』という中で牧師を目指して、神学を通信教育で勉強し始めて、今2年です。

とにかく物は豊かになっているけど、心が貧しい。ここ10年ほどで自殺者が年間3万人を超えるというような、この田舎でも患者会でもそうです。

『生まれてきてよかった』というような人生を送ってもらえればと、今、借家に8〜9人の独居の老人の方がおられます。本当にみなそれぞれたいへんな人生を送られてきた。だから彼らにも、感謝していけるような人生を送ってほしい、そのような生き方をしてほしい、そのお手伝いがしたいと思っています。言葉にならないような経験をみなさんされて、彼らはみなここを『終の棲家にしたい』と言ってくれているから、本当にそばにいるだけで喜んでもらえるような、私自身がそのような生き方ができたら、一歩一歩それに近づけているかなと。毎日『今日1日これでよかったでしょうか』という気持ちですが、そんな過ごし方がこれからも続くだろうと思います。」

●すべてが相働きて益となる

「仕事の面でも、苦しい中でいやな人、憎い人とかいたけど、それが逆に今はなぜか本当に感謝。それは苦しいときにはわからない。

『すべてが相働きて益となる』
─新約聖書 ローマ人への手紙 8章28節

というか、本当に不思議。あの苦しかったことが感謝に変わる。試練が忍耐を生み出して、忍耐は練達を生み出す、練達は希望を生み出すという。本当に試練が感謝に変わる。それのおかげで私は苦しみあいました。でもその苦しみが道を与えてくれた。苦しみあって、その掟(おきて)を知らされた。本当にそう思う。苦しみがなかったら、喜びも弱い、小さいだろう。苦しみが大きければ大きいほど、そのあとの喜びは大きい。それを体験した。」

●病気を通して気づいたこと

「必ず道が用意されているということ。いつもこれ本当に不安だけど、“大丈夫”。この大丈夫がどこから来るのか私にはわからないけど、本当にいつもそばにいてくださる。私は弱い。でも弱さを誇る、弱さが誇れる。自分が強いと思ったときには傲慢で、砕かれる。そのことを経験した。

『自分はなんでもやってきた、自分はなんでもやれる』というような、本当に片意地はっていた自分がいた。でもその自分があの病気と直面して『(自分は)無力な弱い者なんだ』ということを思い知らされて、弱いにもかかわらず強がっていた自分がいた。それを本当に認めて、自分ではどうすることもできない弱い者だということがわかったときに、すべてをゆだねることができた。

自分がどうこうするんじゃない、すべてをおゆだねする、そのことができたら、ふっと楽になった。生きよう生きようとしたときには重たかったのが、自分ではどうすることもできないということがわかったときに、何か重荷をおろしたようにふっと軽くなった。『あぁ、これなんだな・・・』と。それに気づいたのは、いつかよくわからないけど、でも本当にあの病気を通して、そのことを教えられたのかな。

だからどんなことが待ち受けているか、神様がどんな筋書きでこれから私を試されるかわからないけど、不安だけど、いつも大丈夫。『いつも喜んでいなさい。絶えず祈りなさい。すべてに感謝しなさい』

『わたしの恵みはあなたに対して十分である』
─新約聖書 コリント人への第二の手紙 12章9節

と。そうなんだ。こんなにたくさんの数えきれない恵みを受けて、私はなんという幸せで、何を返すことができたか。死んだとしてもしょうがなかった、でもこうして生かされた。こうして今こういう場所も与えられて。」