統合失調症と向き合う

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高森信子さん
高森 信子さん
(たかもり・のぶこ)
こころの相談員/SSTリーダー
小学校や幼稚園の教師を経て、子どものこころのアートセラピストとして、幼児・学生の美術教育に15年携わる。1985年よりカウンセラーとして活動を始め、その後東京大学デイホスピタルでのSSTリーダー研修を経て、1989年より地域作業所、デイケア、家族会などで当事者や家族のためのSSTリーダーとして活動中。最近では、保健関係者や他分野からの依頼もあり、年間約300回のSSTのために全国に出向いている。著書に「家族が知りたい統合失調症への対応Q&A」「心病む人のための高森流コミュニケーションQ&A」(いずれも日本評論社)などがある。
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8家庭でのコミュニケーション・ポイント

「第一に必要なことは、相手の現在位置を知ること。この病気の方は、以前は人並み以上にがんばっていた。お医者さんによると、“いい子”をやりすぎていた。“いい子”というのは、お母さんにとって都合のいい子、お父さんにとって都合のいい子、大人にとって都合のいい子の上を取って、『あんたいい子ね』と言うんですよ。だからいい子をやっているのは疲れるんですよ。

お医者さんは、発病した時、この病気はすでに10年前からスタートしていると言うんです、発病に向かって。平均的に(発症が)もし20歳とすると、10年前、10歳ぐらいから徐々に緊張の度合いが高まってきて高まってきてパチンと切れたのが発病の時と言うんですね。

『オギャー』と生まれて10歳ぐらいまでは、親の価値観の中で、親の言うとおりに育てられ、親が絶対者で生きてきたんですよね。ところが10歳から20歳の間は、今度は親だけの支配じゃなくて、横の関係ですよね。横の関係の中で、『人間てなんだ?親の言うとおりか?』というところで、批判精神というものを少しずつ少しずつ積み重ねながら思春期を迎える。その10年間が徐々に緊張しているとなると、大事な横の関係を築くのが薄くなったまんま発病してしまったということがあるので、コミュニケーションの横との関係を完全に学ばないうちに発病してしまった。そして、陰性症状で人を避ける、人とのコミュニケーションがうまくいかず、引きこもりがちということがありますよね。そうなると、病気のために残った技能がまた奪われてしまったということもある。だからコミュニケーションが今下手な人、というのは事実なんですよね。

ご家族からすると、それがほんとに“お困りごと”というテーマにいつもあがるんですよね。でも、それがお病気の性質なんですよね。だからそれをいかに子育てするか、もう一度大人にするか。なるべくストレスのない中で、できたら子どもでいたいというのが、(当事者の)きっと正直な本音のところだと思いますよね。それをもう一度育て直すのがご家族の役目。」

●育て直すとは?

「育て直すとはどういうことかということなんですね。親が引き上げて治すんじゃなくて、本人の体の中から回復力というものが高まってくる。自然治癒力とも言うんですけど、それが出てくるような育て方というか、育て直しなんですよね。

患者さんにとって、育て直しでまず一番大事なのが、疲れた神経を眠っていただく。存在するだけで安心できる場を提供することが、基本の基ですよね。家族が、ね。相手が育ってくれば、それなりの会話は出てくるけれど、基本は調子が悪い時ほど今の胎児の環境を作ってあげる、ストレスをあげない。

でもご家族からすると、どうしても病気を治してあげたいので、『何々したらいいんじゃない、何々すると病気が治ると思うよ』と言ったお母さんがいて、息子さんがその度に、『待ってよ、待ってよ、僕は今それができないんだよ』と。ということは、そのお母さんが提案するものが(息子の)現在位置とイコールになっていない。できないということ。結果的にその息子さんは、自分は親の期待とおりになれない自分というので、自殺しちゃったの。そのお母さんが、お子さんを持っているご家族達に一番言いたいセリフ『待ってあげてください』という言葉を言ってくださったんですよね。ということは、現在位置に合う言葉かけをしてあげてください。『待つよ』と言える家族になってほしい。」

●今、できていることを認める

「たまたま1人のお母さんが、2人お子さんがいるんですが、2人ともお病気で、上のお兄ちゃんが統合失調症と知的障害と癲癇(てんかん)が絡んでいるので大変なんですよね。

そのお兄ちゃんがタバコを吸う。家中誰も吸わないのに、お兄ちゃんのタバコでみんなが迷惑。で、お父さんが、(お母さんに)『お前が甘いからああいうふうに言うことを聞かない。私が定年退職になったら教育係、徹底的にあの子についてタバコをやめさす』と言うわけ。それで、お父さんが定年後、長男の方に張りついて、取りあえずは、“タバコは所定の位置で吸うこと。換気扇の下で換気扇を回して吸うこと”と規則を決めたんですね。ところがその息子さんはそれを守らない。お父さんはそれ(お兄ちゃん)に張りついているので、いわゆる怒る言葉と、それに反抗するお兄ちゃんのケンカ。1日中その怒鳴り声で、弟さんがとても辛いんです。その奥さんもお父さんの言っていることは正論なので、止めてと言えないと言うんですね。どうしたらいいだろうと。家の中がもう殺伐としてしまった。

そういう話が出た時に、私が、タバコが吸えるというのが息子さんができること、現在位置。でもできないことは、換気扇が回せないこと。『じゃ、換気扇が回せないのは何歳ぐらいだと思いますか?』と言ったの。そしたらお母さんが、『3歳ぐらいだと思います』と言ったのね。『じゃ、3歳ぐらいの子が換気扇を回せないとすれば、どうしますか』と言ったら『回せる人が回してあげる』と。なので、じゃあ、そばにいる人が、タバコを吸っている彼を見つけたらば、換気扇を引っ張ってあげて、『こうして吸ってくれると、みんなが助かるんだけど、ね』と、そばにいる人が引っ張ってあげてくださいと言ったんですね。

お母さんは帰って、夫に言ったんですよね。『じゃ、1週間限定だぞ』と言ってお父さんが、タバコを吸っている息子さんを見つける度に換気扇(のひも)を引っ張ってあげた。そしたら1週間経たないうちに息子さんが自分で回せるようになったんですよ、ね。

私は、(当事者の)現在位置に自分が寄り添ってあげることが、家族にとってコミュニケーションで一番大事なことじゃないかなと思っています。」

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