統合失調症と向き合う

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堀 澄清さん
堀 澄清さん
(ほり すみきよ)
1937年生まれ、75歳。18歳で精神科を受診し、その後、10回の入院を経験する。自分の病気を知るために様々な書物を読んだという。現在は、社会福祉サービスを上手に利用しながら一人暮らしをしており、隣の家には女性の友達がいて、穏やかな日々を送っている。
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9メッセージ
Q.当事者の方へのメッセージをお願いします

「僕は1回目の入院をする前に、親元に帰ったわけですね。で、幻聴と妄想に怯えている時に、親父が(僕を)大きく抱きかかえてくれたんですね。どれぐらい時間経った時なのかは分かりません。親父、無言でした。一言も、もの言いませんでしたから、長いことずっとそうやっていてくれているうちに、僕の心に、『父さんが守ってあげる』という心のメッセージが、きれいな言葉で言うと、僕の魂に響いたというような感情が僕の全身に湧きあがった時、幻聴が弱まったんですよ。消えませんでしたけどね。

その時の感情が、僕の療養のすべての原点なんですよ。だから、いかなる場合でも、可能な範囲内で、猜疑心(さいぎしん)を抑えよう、人を疑うことを抑えようということの闘いでしたね。結局、日中は完全に自分の気持ちは、そういうふうになりきれないんですよ。夜、床について横になってからはじめて、本当にそういう気持ちになれるんですよね。だから、可能な範囲内で、自分の意識を超えたところで、『何かに守られている』というか、そういうことを信ずることは、自分の安定に、時間的に短くても、1日1日でも何十年も続けていっているうちに、何かを見つけられるのではないかと(思います)。」

Q.ご家族へのメッセージをお願いします

「統合失調症だったら、基本的にどんなに医療が進んでも、不十分なところで妥協するという心得で、ゆったりね。車の運転だって遊びがなかったら絶対動かないでしょ。自転車だって遊びがあってはじめて安定した運行ができるわけです。着物を着たって、完全にくっついていると着心地が悪いものですよ。こういう隙間があるからいいわけで、そういう空間を。状態が悪い時は、隙間が狭くなりがちなんだけれども、状態の悪い時は起伏が多いわけですから起伏の外側よりもうちょっと隙間を広げてあげないと。心配が、その状態を余計不安定にしますから、隙間はもっと必要なの(ものなのです)。そのことを、心底、片時も忘れないでほしいと思う。安定して起伏が小さくなった時はもっとくっついていてもいいんですよ、ほんとは。

だから、ご家族には、心配のあまり多くの人達が急性期とか症状が激しく動いている時は怒ったり、いろいろと本人に文句を言ったり、『こうやっちゃいけない』とか言う。そういう否定語は、僕の周りにいた人、みんなそういうふうに、そういう側面で、本人に不安をぶつけているんですよ。本当は自分と闘わなければいけないものを、一番安定させなければいけない本人(当事者)にぶつけているからますます状態が悪くなるわけですよ。だからこれは、根本的に180度心配の仕方が間違っている。

だから勉強して、医者にもPSW(精神保健福祉士)にも臨床心理士にも、メモを作って、療養ノートを作って、それを持って相談に行く。で、もっと隙間を大きくして、自分のお子さんと向き合って、接してもらいたい。だから絶対に追求したり、否定をどんな場合でも基本的に吐いちゃいけないわけね、吐きたくても。どうしてもというのなら、無言で暖かい雰囲気だけを作るようにしてください。それがどれほど役立つか分かりません。

食べ物だったら、本人が好きなものがあるじゃないですか、そういうものをご飯一膳でおかずだったら一品でいいんですよ。それを作ってくれて、お膳の上に乗っけてくれるとか、それだけでものすごく心が通じるんですよね。だから、絶対に不安をぶつけないで、そういうやり方で本人に親の愛情を示してもらいたい。そう思います。

親父は自分の心配を直接僕にぶつけたことは1回もありません。1回目の病院の時、これは、何十年もしてから分かったことなんですけど、親父はその病院、主治医のところに相談に行っていたんですね。そのことは僕にひと言も言いませんでした。それからお袋も親父に基本的に従って、家にいる時は、『お風呂が沸いたよー』とか、『ごはんだよー』ということで、寝ていても、起きていかなくても、何も言わなかった。やりたいようにやらせてくれて、行動に一切の指示がなかったということは、あとから思い出してどれほど助かったか分かりませんね。」

Q.医療者へのメッセージをお願いします

「医療者もやっぱりもっと大きく見てほしいですね。状態が悪くなりそうな場合は、ひょっとしたら、下り坂かなあというふうに見られるような感じがすると。『下り坂だ』と限定はしてほしくないんですけど、『下り坂のような、そこらへんに入ったような感じですね』ということは言ってほしいと思います。」

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