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糸川昌成さん
糸川昌成さん
(いとかわ まさなり)
東京都医学総合研究所 精神行動医学研究分野「統合失調症・うつ病プロジェクト」プロジェクトリーダー
精神科医・分子生物学者。東京都医学総合研究所の精神行動医学研究分野「統合失調症・うつ病プロジェクト」プロジェクトリーダーとして勤務している。1961年(昭和36年)生まれ。母親が病気体験者。分子生物学者として研究に従事しており、週に1度精神科病院で診療を行っている。妻、息子2人、娘1人の5人暮らし。
糸川さんの研究については、著書「臨床家がなぜ研究をするのか—精神科医が研究の足跡を振り返るとき—」(星和書店) 「統合失調症が秘密の扉をあけるまで—新しい治療法の発見は、一臨床家の研究から生まれた」(星和書店)を読みください。
家族としてのインタビューはこちらでご覧いただけます。
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6精神科医として診療について
Q.日常診療で患者さんに対応する際に留意していることは?

「母(統合失調症体験者)の話で言ったのですが、症状にはその人なりの意味がある。一見問題行動として記載されているものの中に、実は問題ではなくて、(母が)0歳の私を連れて北海道へ帰ってしまうということは、問題ではないのではないかなあと…。

もちろん、よく見てみると、被害妄想があって、追い立てられて逃げていたのかもしれないのですが、でも0歳の私を置いてきぼりにしないでちゃんと連れて行っているわけです。その患者さんが一見問題行動として出してきた症状に、何かその人としての意味があるのではないかという視点は、大事にしようと思っています。」

Q.患者さんやご家族へのメッセージをお願いします

「僕は科学者なのですけれども、母を調べていくうちに、ずいぶん科学では分からないことをたくさん経験したのですね。統合失調症で苦しんでおられる方達も、それからご家族で苦しまれている方達も、それは、たしかに脳の病気なのですけれども、同時に、脳の病気に陥ってしまった人の苦しさというのは、薬だけではなんとかならないのですね。

人は物語を生きていまして、その物語がうまく描き切れない時に、私であれば自傷行為のような、朝2時半から研究をするなどというおかしなことをやるわけです。でも一見、問題(と思える)行動には、母への贖罪(しょくざい)という、自分に対する癒しみたいなものもあるわけです。そこいらへんが……。研究は大事ですし、研究の未来に期待していただくことに、僕も一所懸命応えようと思って、研究はしているのですが…。

たちどころに治る薬が未来に出てくるというよりは、今、目の前にいる当事者の方の症状の中に、実は答えが含まれている。あるいは、ご自分なりに、対処行動を取られていることがよくあって、そういうところを聞き出してあげるというか…。

ずっと調子が悪いわけではなくて、良い時と悪い時があった時に、『良かった時にどうしていたのかな?』と聞いてみると、意外とご本人なりの対処行動があって、『ああ、それはいいねぇ。そういう対処行動をどんどん増やしてくと、症状(が)良くなるよ』という…ね。

薬は脳には効きますけれども、その人が生きている固有の物語は助けない。魂には薬は効かないのですね。より脳に効く薬を開発するために、僕達は一所懸命研究します。ご家族も当事者も、その未来に期待してくださっても結構です。そしてその未来に応えるためにも、僕は一所懸命研究しますが、未来ではなくて、現在の中にも実は答えがあるということを、当事者とご家族の方にはどうか気づいていただきたい。

今の医療は完全ではありませんし、今の薬も完全ではないのですが、その不完全な中にも、実は当事者ご自身で、何とか治ろうとする回復力のようなものがあって、そういうものを、その症状の意味を汲み取りながら対処行動を増やすことで、ご本人に、この前まで効かなかった薬の効きがよくなってくることもあるのだと。あるいは、薬が脳を治していたのだけれど、本人が物語を描きながら心も治って魂も甦ってくるということがあるということを、どうか、ご家族と当事者の方には受け止めていただきたい。将来に希望を持っていただいて十分結構ですけれども、現在の中にも、希望の芽はたくさんあるということをお伝えしたいと思います。」

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