統合失調症と向き合う

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藤井康男さん
藤井 康男さん
(ふじい・やすお)
山梨県立北病院院長、
慶応義塾大学医学部精神神経科客員教授
1977年慶応義塾大学医学部卒業。1978年4月 山梨県立北病院に勤務。1985年9月 医学博士を授与。1985年8月〜1年間 フランスのバッサンス公立病院へ留学。2003年4月山梨県立北病院院長に就任し、2007年4月より慶應義塾大学医学部精神神経科客員教授。
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3タバコとコーヒーについて
●タバコについて

「統合失調症の患者さんは、すごく喫煙率が高いことが知られています。これは世界中でそうなのですよね。なぜなのかは、それほどよく分からないのですけども、いろんな考え方がありますね。1つは、統合失調症の患者さんというのは、精神的にどうしても不安定になりがちですしイライラするかもしれないし、タバコを飲んで、少し気を落ち着かせるということも必要なのかもしれない。そうしているうちに、要するにタバコというのは習慣性がありますから、やめられなくなってしまうということもあるかもしれません。

入院している方に関して、自由になるものというのは少ないですね。そういう中で(自由になる)数少ないものの1つがタバコですね。ですから入院中にタバコを覚えてしまって、そのまま量が増えてしまうこともあるかもしれない。特にすごい本数のタバコを吸われる方が結構いらっしゃるのですよね。10本20本じゃなくて40本とか60本とか、1日ひっきりなしに吸っていて、もう手が黄色くなっているような方も、時々いらっしゃいますね。そういうチェーンスモーカーみたいになっていると、やめるのはなかなか簡単ではないですね。そういうふうな自分をコントロールする能力が低下してしまうのは、統合失調症の病状の影響なのかもしれませんね。

表 抗精神病薬による主な副作用
表 抗精神病薬による主な副作用
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もう1つ、要するに抗精神病薬の副作用に対して、タバコで何とかしているのではないかという考え方もありますね。アカシジアとか、イライラしている中で、タバコでそれを紛らわしているというようなこともあるかもしれませんね。で、タバコを吸うとどうなるかというと、抗精神病薬の濃度が下がってくるというか、ある意味で効きが悪くなることが知られているのです。タバコを吸っていると、肝臓の酵素に影響を与えて、抗精神病薬の代謝が促進されるということが知られていて、患者さんは、無意識にそれを知っていて、タバコを吸って薬を排泄させているのかもしれませんけども、逆に言えば、タバコを吸っていると薬が効きづらくなるということですね。

だから、喫煙しているかいないかということは、薬の量を決める1つの大きな要因になります。もちろん喫煙というのは、長期的に大きな問題を引き起こします。もちろん肺がんの問題はあるのですけども、何十年も大量のタバコを吸っていると50歳60歳ぐらいになってきた時に、いろんな肺の病気を起こして、非常に息が苦しくなってきて、酸素吸入をしなければいけないようなことも結構あります。だから、このタバコについてはやはり気をつけていって、できるだけそちら側に流れないようにしなければいけないのですが、このことに関しては、やはり若い時から気をつけなければいけないのですが、なかなか難しい問題の1つですね。タバコをできるだけ減らす試みというのは、今後取り組むべき重要なポイントの1つですよね。」

●コーヒーの影響

「コーヒーの問題も(タバコと)似たりよったりなのですが、コーヒーは、皆さんもよく知っているようにカフェインが入っていますね。カフェインというのは頭をすっきりさせて、なんて言うか、気分を少し爽快にさせるという効果がありますけども、統合失調症の患者さんで、コーヒーをとてもよく飲む人がいます。なぜなのか、これもよく分からないのですけども、統合失調症の薬、抗精神病薬は眠くなりますよね。眠くなるから、コーヒーでも飲んで頭をすっきりさせないととてもやっていられないということもあるかもしれません。そういう中で、コーヒーもある程度習慣性がありますから、どんどんどんどん飲んでしまうということもあるかもしれません。

気をつけなければいけないのは、コーヒーのカフェインの摂り過ぎで、特に、1日に何杯も何杯も飲むとそれが夜に回ってきて眠れなくなってくるということですね。で、眠れなくなってくると今度は睡眠薬をたくさん使うようになってくる。で、睡眠薬がないと眠れないと。そうするとまた睡眠薬の問題が起きてくるし、睡眠薬をたくさん使うと、次の日それ(薬)が効いてきてまた眠くなる、するとまたコーヒーを飲む。このような悪循環になってくるケースというのは結構あるのです。

ですから、コーヒーの問題を解決する時には、睡眠薬の問題も両方考えて、その辺をよく説明してコーヒーの飲む時間とか飲む量を考えた中での、薬全体の調節、あるいは1日の生活リズムの調整などもたいへん大切ですね。

もう1つコーヒーで気をつけなければいけないのは、缶コーヒーの問題ですね。缶コーヒーの中に、非常に甘いコーヒーがあります。それをたいへんお好きな方がいらっしゃるのですよね。中にはペットボトルのコーヒーもあり、そういうもので甘いコーヒーをたくさん飲む人もいます。がぶ飲みする中で、コーヒーのカフェインの問題も起こると同時に血糖が上がってきて、糖尿病性のケトアシドーシスなり糖尿病の誘発という問題につながることは結構多いのですよね。

ですから、その辺はよくチェックする必要がありますし、このことに関してはよく注意してかからないと、『(コーヒーを飲むのを)やめろ』と言うだけではうまくいかないことが多いですね。

タバコの問題もそうですが、何もしてなくてぶらぶらぶらぶらしていると、人間というのは、コーヒーを飲んだりタバコを吸ったりしがちで、何らかの活動をしていれば、それだけそういうことが少なくて済むわけですから、患者さんに、『コーヒーを飲むんじゃない』とか『タバコを吸うんじゃない』と言うだけじゃなくて、生活全体にいろんなものを見直して、薬のことを見直す中で、このこと(コーヒーやタバコの問題)に対応しなければいけないですね。なかなか難しい問題の1つです。」

ケトアシドーシス:インシュリンが明らかに不足することによって、高血糖やケトン体という物質が血液に出る状態。このケトン体が増えすぎると血液が酸性状態となり、胃腸症状、意識障害、そして昏睡状態が生じて、死亡する危険性もある。この状態を糖尿病性ケトアシドーシスと言う。
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