がんと向き合う

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川守田順吉 さん
(かわもりた・じゅんきち)
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北海道江別市在住。印刷会社の総務部にいた58歳(1999年)のとき直腸がん(ステージ3b)が見つかり、手術を受ける。人工肛門を造設し、術後は抗がん剤を3年間服用。好きなバッハと写真にうちこむうちに気持ちが慰められ、退職後は近隣の図書館や大学でボランティア活動を始める。2004年、新たにS状結腸がん(ステージ3a)が見つかり手術を受け、術後は抗がん剤を8ヵ月間服用。患者会「江別わかくさの会」会長。
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6考え方が変わったきっかけ

「でも最初からこんなに元気じゃなかったですね。やはり再発の心配がまずありましたので、どうしても落ち込んでしまうという。それと自由にアクティブな行動がしにくいというようなのがありました。落ち込む時期があったのですけど、バッハの音楽で少しずつ慰められて。

そのころ『サライ』(2000年5月18日10号)という雑誌に、社会学者の鶴見和子さんのインタビュー記事が5〜6ページ載りました。あの方が70代のときに脳溢血で倒れて左半身不随になったときに、国際リハビリテーション学会の上田敏先生という先生が、『障害というのは異なった文化を受け入れることだから、まず障害を受け入れなさい。ほかの人の経験できない世界を経験すべきだ』というような話をされました。鶴見さんはその話にいたく感動して、リハビリの先生に一生懸命ついて、体を動かす治療をしたという記事があったのです。

繰り返し繰り返しそれを読んでいるうちに、『障害をもつことで今まで気づかなかったものが見えてくるようになりました』と鶴見さんはおっしゃっていて、『今までの世界と、障害を受けたあとの世界と、2つの世界を生きられるというのは幸せじゃないの』という考えのお話だったのです。

『これだー!』と。ですからその記事に出会うことがなかったら、今こんなにニコニコしていなかったと思います。」

参考) 鶴見和子氏の“障害”についての考え方が記されている本
   ・『回生を生きる─本当のリハビリテーションに出会って』
     鶴見和子、上田敏、大川弥生・著 (三輪書店)
   ・『患者学のすすめ』 鶴見和子・著 (藤原書店) ほか

●障害をまず受け入れる

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木下順一・著
『天使の微笑み』
「やはり『障害というのは受け入れるべきなのだな』というのは、別のときにも遭遇しました。 函館の作家で木下順一という人がいて、この人は小学校のころから脊髄カリエスで片足を切断するという障害をもっている方です。その奥様が、70歳のころ膀胱がんになって、人工肛門を造らなくてはならなくなりました。そのころの病院の生活のことをエッセイにして『天使の微笑み』という本を出しているのです。

たまたま木下順一さんの奥様の富美子さんは、私の中学校のときの担任の先生で知っていたので、すぐに買って読んでみたのですが、やはり『障害をまず受け入れよう』という考えですね。奥様が愛おしげに人工肛門を触って見ていると、主治医が『人工肛門ばかり見ていないで前向きになりなさいよ』と。でもご主人が『医者は間違っている。これ(人工肛門)を認めたからこそ前向きになっているんだ。医者は気づいていない』と、そういう文章が一部にありました。まったく知らない人ではなく、知っている人の言葉だけに、やはりそうなのだなという感じがしました。

その2つのことが自分の考え方を変えて、大げさに言えば人生観を変えてしまったと思います。たぶんその考えにずいぶん救われている部分が多いと思います。」