がんと向き合う

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東 千佳子 さん
(あずま・ちかこ)
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1970年滋賀県生まれ。2001年よりオーストラリアに住み、永住権を取得し仕事も順調だった。2010年、腹痛より大腸がん(ステージ4)が見つかる。術後、感情を失い、専門家のカウンセリングを週2回受け、次第に落ち着く。1ヵ月後日本に帰国し、実家から通院。家族、友人、患者会のサポートもあり徐々に自分を取り戻す。2012年にiPad2を購入、日記をつけ始める。6月から文鳥を飼う予定。
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14治療中心ではない生活へ

「私は治験に参加しているので、治験の決まりで『抗がん剤を5週間以上はあけてはいけない』ことになっているのです。でも5週間あくと、結構自由な時間がありますよね。今の主治医がすごく理解のある方で、今の私の状況では『2〜3ヵ月抗がん剤をやめるのはだめだけど、5週間ならいいでしょう』と。」

●2週間半のオーストラリア旅行 (2011年11月)

「(精神腫瘍科で処方された)薬が効きはじめてうつがずいぶん治まって、少し前向きに考えることがやっとできるようになって、『オーストラリアに帰ろう』と思ったのです。旅行だったら行けるからと思って。

私は病気になって、本当に夜逃げみたいな状態でとにかく日本に帰ってきて、友達に満足にお礼も言える精神状態ではなかったので。『帰ろう』と思いました。みんなにすごくお世話になったので、いちばんの恩返しは『自分の元気な姿を見せるこ』というのがまずあって、帰ったのです。

あと、これから抗がん剤治療を続けるので、もっと自信がほしかったんです。それで『ちょっとやってみよう』と思って、結局、2週間半オーストラリアに帰って、楽しかったんですね。みんなに会えたのも楽しかったし、医療関係の方にも会えてよかったし。体調があまりよくなかったのでたいへんな旅行ではあったのですが、そういうことをするとやっぱり自信はさらにつきますよね。結局、『自分で自信をつけてくしかないんだな』と思いました。

小さなことでもいいから、目標を挙げてそれを一個一個やることでさらに自信がつく。『それで前に進むしかないかな・・・』というのが本音です。」

●カレンダーに予定を入れる

「私が今よりどころになっているのは、『自分がしたいことをやっていくこと。その合間に抗がん剤を進める』ということです。1年前うつになったのは、抗がん剤中心だったからなんです。抗がん剤のために生きていて、それでうつになっちゃった。なので今はなるべく逆にして、旅行などの予定をもう全部入れちゃうんです。たとえば今日の予定、映画の予定も全部入れてしまう。それで診察のときカレンダーを見ながら先生に、『先生、こんなに予定が入っているから、抗がん剤はこの日しかできない』って言うんですよ。すると、気分が全然違うんですよね。

抗がん剤に振り回されていた毎日ですが、自分の予定を立てることで、その予定を達成するための手段として抗がん剤をする、そうするとすごく気が楽なんです。結局、『自分の人生はがんが中心になってしまった』というのが、今は『もうがんなんてしょうがないから、抗がん剤はすごくありがたいけど、自分のやりたいことするための補助としてやっている』ととらえると、気分的にも楽なんですよね。

ただ、ここまで割り切って考えられるようになるまでは、本当にしんどかったです。

何回くじけたかわからないし。でもくじけていいんですよね。くじけたら起き上がるしかないので。だから、やっと今こういう状況に行けたのが自分でもすごくありがたい。やっぱりみなさん小さなことでもいいから目標がないと、抗がん剤は続かないですね。抗がん剤のためにみんな生きていけないですもん。すっごいしんどいから。」

●1日1個、最善のことをしよう

「私もはじめから旅行とか大きい目標を立てていたわけではなくて。去年、うつから覚めた頃に始めたことは、『1日1個、最善のことをしよう』というのを目標にしたんですね。毎日精神状態も違えば体調も違うので、その日に合わせて最上のことをする。

たとえば『お風呂に入ること』がその日できるいちばんのことだったりするんですよね。それを目標にして、たとえば『夜、お風呂に入りたいから、昼間寝る』んです。それで夜お風呂に入って、結構体力使うんですよね。でもお風呂に入ると嬉しいので、やっと『今日の目標一個達成!』と言って自分を褒めて寝るんです。次の日に起きたらまた、『今日は体調がいいから、スーパーに行こう』と決めて、それをするんです。結構嬉しいですよね。だから本当に小さなことから始めて、しんどいときはもう『1日寝ていること』が目標になったりするんです。でもそれも達成できたら嬉しいし。」

●だんだん目標が大きくなっていって

「そういうことから始めたのが去年の終わりぐらいなんですね。だんだんだんだんその目標が大きくなっていって、『旅行に行きたい』とか、『ブーケのランチ会に行きたい』とか。そのために『しょうがないから抗がん剤をしようかな・・・』で、今の段階になったんです。だから今はすごく落ち着いたかなと思います。

どんな小さなことでも、やっぱり『生きがい』というのはすごく必要なので。生きがいがないとやっぱり人間て人間じゃなくなっちゃうので、もうどんな小さなことでもいいから、目標があるといいなと思いますけどね。

ただ私も人から聞いてはいたんですけど、実行するのに1年かかったんです。ずっと聞いてきたんだけど、『そんなのできるわけないじゃん、目標なんてもてるわけないじゃん』と。でも、うつがちょっとよくなって、なんとかできるようになりました。」

Q.目標をもてるようになったきっかけは?

「正直なところ、抗うつ剤がてきめんに効いたということが大きかった。抗うつ剤は効果が出るまで2〜3週間かかるんですけど、それがてきめんに効いたのと。その頃、考える時間があまりにもあって、1年前に(オーストラリアのカウンセラーに)言われたことや何かをいろいろ考えていたら、なんとなく落ち着いたのと。あとやはり患者会のミーネットとブーケの方たちと会うことで、『ああ、これは参考になるかもしれない』ということがいろいろあったんですよね。」

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