統合失調症と向き合う

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渡邉博幸さん
渡邉 博幸さん
(わたなべ・ひろゆき)
国保旭中央病院神経精神科
地域精神医療推進部部長
1992年千葉大学医学部卒業、同大附属病院研修医を経て、1998年大学院修了後、同精神科助手。2007年より同講師を経て、2009年に現職に就く。地方での精神医療の活性化を図るため、精神疾患に特化した訪問看護ステーション「旭こころとくらしのケアセンター」の設立など、様々な地域精神医療の仕組みづくりに関わり、それらとの強い連携のもと精神科医療を実践している。
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9薬と上手につきあうために
●薬を飲まなくなる理由

「地域で当事者の方が生活をうまくやっていくためには、お薬を上手に使うということが大変大切になります。地域生活に移るその前に、お薬の整理を十分担当医と相談して、工夫をしておくことが大事になりますので。

まず、お薬をどうしても飲み忘れてしまう、お薬を途中で飲まなくなってしまう、その理由として、2つあります(表1)。1つはお薬の種類が多すぎる、あるいは飲む回数が多すぎて、ご本人が飲み忘れてしまう、あるいは飲むのが面倒くさくなってしまうという飲み忘れです。

2つ目は、入院中は我慢してお薬を飲んでいたんですけども、つまり『飲まないと退院できないよ』とか、あるいは飲まないと担当医のほうから、あるいは担当の看護師さんから注意されるとか、そういうことが嫌で仕方がなくしぶしぶ飲んでいたと。ほんとうは副作用が出てしまって飲みたくない、あるいはお薬を嫌いになってしまっていて飲まなくなってしまう。お薬に対しての積極的な拒否反応ですね。で、こういうことが出ないように、出さないように工夫していくことが必要になります。」

表1. 薬を飲まなくなる理由

1. 薬の種類が多すぎる、飲む回数が多すぎる

飲み忘れる

2. 副作用が出た

薬を嫌いになる

飲まなくなる

●薬の量を整理する

「第一には、入院中にお薬の回数を退院を目指して十分整理しておくということです。どういうふうに整理するのかと言うと、1つ目の観点で言うと、飲む回数をなるべく少なくするということです。

日本の精神科病院での入院でのお薬の飲み方というのは、伝統的に朝・昼・夕食後の1日3回飲む。それから寝る前に眠剤、睡眠薬を中心としてもう1回飲む。計4回飲むというのが比較的スタンダードな飲み方になっています。まずお薬の整理をして、1日4回を3回に、3回を2回に、もしできるならば1日1回寝る前だけとか1日1回夕食後だけとかに十分整理をして、分かりやすい処方、1日の生活の中で飲みやすい処方にして、退院していただくというのを心がける必要があります(表2)。

そのときに、当事者の方にご協力をお願いしたいのは、お薬を変えるということを恐れてしまう、非常に怖がってしまって前のお薬にこだわってしまう方も結構いらっしゃるのですけれども、入院中だからこそいろいろチャレンジしてみるお気持ちを持っていただくと、お薬の切り替えがスムーズに進むなというふうに思います。お薬が1日1回あるいは2回になれば、退院してからの生活の中で、お薬のことに囚われる時間というのが減ってきます。」

表2. 服薬の工夫

・入院中に退院を目指して薬を整理しておく

飲む回数を少なくする

・入院中だからこそ薬の切り替えにチャレンジしてみる

●薬の調整を申し出てほしい

「2点目としては、入院中に本当は症状がもう既になくなっていて、お薬を減らしたりやめたりしてもいいのに、漫然と続いてしまっていることがあります。担当医と相談して、今の状態に合ったお薬に見直してもらう。ちょっとお薬の量が多すぎて混乱しやすいし、分かりにくいから調整してほしいという申し出を、ぜひしてみてください。お薬に対して積極的に取り組んでいこうという姿勢は、私たち医療者にとっても、治療をがんばる大きな励みになります。」

●便利グッズを活用してみる

「それ以外にお薬を忘れないで済む工夫として、今、100円ショップなどでもお薬カレンダーとかお薬の袋などが売っています。カレンダー式に、あるいは1週間に月曜日から日曜日までの穴が開いているところにお薬を差し込んだりするようなものが安い値段で買えるようになっておりますので、病院にケースワーカーさんや外来を担当している看護師さんがいる場合は、便利なグッズがあるかどうか訊いてみてください。で、病院でお薬をもらったあとにその場で、例えば外来にいったん戻ってきて、看護師さん達や事務の方達に見てもらいながら、お薬をセッティングして家に帰る。そういうことも忘れないで済む1つの工夫だと思います。」

●家族としてできること

「ご家族へのお願いとしては、お食事のあとに飲むパターンが、日本のお薬を飲む習慣ですと一般的ですので、なるべくご本人様と一緒に食事をしていただいて、食事のあとにご本人が飲むのを支援していただくというか、『飲んだね、ありがとう』という気持ちで見ていただければなと思います。けっして『飲まなきゃだめだ』とか、『飲まないんだったら何何してあげない』とか、お薬をご本人と一緒に生活する上での交換条件にはしないでいただきたいと思います。

お薬を飲む飲まないというのは、ご本人様の出ている副作用とかお薬へのいろんな複雑な気持ちとかから出ていることが多いです。ご本人がお薬を飲まなくなってしまったときに一番考えなければいけないのは、ご本人は我慢して言わないけれども、そのお薬で副作用が出ているのではないか、あるいは飲みにくいお薬の出し方になっているのではないか、そういうふうに考えて、医者、当事者の方、ご家族の方とみんなで工夫していきたいと思います。」

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