「病気に関してはあまり深刻に考えないです。もう病院に行ったらそれっきりですよ。すべてお任せです。自分で何ができるわけじゃないもの。体ひとつ拭くにしても、傷口を拭いていいものか悪いものかわからないじゃないですか。だから看護師さんに『やって下さい』と言うでしょ。そういうふうにしてやっていれば、病院の中も楽しいわが家になります。
あれだけの設備で、看護してくれるスタッフがひとりふたりではないでしょうし、大きな部屋を4人で使って朝から手とり足とり世話をしていただけるし、お食事は上げ膳据え膳だし、お風呂も入れるし、電気は声をかけて消してくれるし、時間がくれば『はい何時ですよ』と起こしてくれるし、『こういうことをやるので、行ってください』とちゃんと教えてくれる。こんなにありがたいことはないのではないかと思うくらいですよ。それで退院するときの支払いも(少ないので)『いや、こんなもので(いいの)?』と思いますね。」
「それと看護師さんが、本当に一晩中面倒見てくれますからね。『よくこんなに若い子が一晩中起きてやっているな』と思いますね。嫌な顔しないしね。僕だったらとてもじゃないけど3日も続かない。もう蹴飛ばしちゃいますね。
ですから僕が入院している間は看護師さんには『あまり手をかけないようにしよう』と思いました。病室そのものを明るくすれば看護師さんも喜んで来てくれるのです。暗い部屋というのは、やはり何かあるのではないかと思って、看護師さんもそーっと(ドアやカーテンの間から)見るわけです。明るい部屋はそんなことなく、すーっと入ってきて『どーっ?』と言うその声が違うのです。それで患者も『いや大丈夫だよ』というふうになるのです。病院の中はある程度そういうふうにしておかないと生活の場ですからね。入院中は、楽しくできないのではないですか。
僕は4人部屋でした。普通カーテンが全部引いてあります。しかし、僕より皆年上でしたから、皆どうせ起きているのだったら『朝、気分よく空気を入れ換えようよ』と言って、カーテンを全部開けてしまうのです。皆、座っているのが見えるわけです。それで『昨日はどうだった?』『どう調子は?』とお互いにしゃべるのです。家庭の事情は各自面々あるので、家のことは話しません。病院の中のことを話しているなら支障がないじゃないですか。」
「(もう病院の食事が私は)好きでね。患者のための食事ですから、決して無駄にしてはいけないと思いますね。決してまずいものではないです。美味しいと思って食べればなんでも美味しい。ましてや人様が作ってくれたものはすべておいしいと思えば美味しいのです。こういう商売(洋食屋)をしているので、人の作ってくれるものは本当に美味しいですよね、どんなものでも。
中には口に合わないものもあります。それはまずいのではなくて、合わないのです。そういうものは食べなければいいと思います。出されるものは喜んで食べなければ、でしょ。変な話ですけど昔、伊達政宗が『この世に人として生まれて、人の作ってくれたものに文句を言うな』と言ったそうですが、それと同じだと思いますね。誰でもひとりでは生きていかれません。人様が作ってくれる、人様が助けてくれるから生きていられるのだと。ましてや病人なんて余計です。病院という大きなところで1人の患者のためにどのぐらいの人がやってくれているかわからないですよね。それを考えたら、感謝しながらやらなければいけないと思いますね。」