がんと向き合う

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田中美智子 さん
(たなか・みちこ)
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1922年生まれ。元日本福祉大学助教授、衆議院議員5期15年。27歳のとき結核で3年間療養、右肺切除。51歳のとき乳がんが見つかり右乳房切除。81歳(2006年)のとき大腸がんが見つかりS状結腸がん切除、ストーマ(人工肛門)を造設、抗がん剤投与のため3ヵ月入院。83歳よりブログ「自然と猫と私」を始める。著書に『まだ生きている』(2009年)ほか多数。
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2人工肛門と向き合う

「最初、医者から『これはもう人工肛門でなければ生きられないし、人工肛門の手術をしてもだめかもしれない。延命措置になるかもしれない。でもこのままにしておけば死ぬからね。だから、延命措置になるかもしれないけど、まず人工肛門やります』と言われたときは、やっぱりちょっと『いやだな・・・』という気がしたね。それ以後はもう仕方がないと諦めているというか、愚痴を言ってもこのおかげで生きているので、あのとき死んでいたらもういないのだから、と思っています。」

Q.人工肛門に慣れるまでに、どのくらい時間がかかりましたか?

「そうね・・・。まあ、今慣れたのかもしれないけど、やっぱり常にここに大きな絆創膏を貼ったような意識というのはあるからね。だから『もう慣れました』ということはないね。はじめはなんというか、私は前向きに生きる人だから、どうやって早く上手に(装具交換が)できるかということで頑張っていたからね。だんだん上手になってきて、『これならいけるわ』という感じだから、あまり人工肛門で落ち込むということはないね。」

●次第に機能が回復

「腸もだんだんよくなっていくというか。人工肛門を造ったはじめは、でれでれでれでれといつ出るか出ないかわからない便が、いつもちょろっと出ているような感じで、それがある程度溜まってきたところでそれを出すというものだと思っていた。そうしたらだんだん1日に1回とか2回とか、健常者がやるのと同じように、朝ご飯を食べて少しすると、ふわーっと出てくるの。それはもう量が多いからね。だからしっかりと装具を貼っていないと、力も強いから。それでぱっと出てしまうと、あとはもう便がないわけでしょう。あっても少ししかないから、外に出ても安心なのよ。たとえちょっと出てもたいした量はない。1度ばっと出てしまえばね。

そのばっと出るときの量が多いから、それで(装具が)はずれるとたいへんだね。食べた量にもよるけどね。だから中には、それが心配で少ししか食べないという人があるけど、そうすると栄養失調になっていくよね。だからやっぱり食べないで、食べないようにして、装具がはずれるのを守ろうとするのではなくて、『食べて、守る』という生き方にしないと、食べると出るからといって食べるのを少しにすると、やっぱり長い間には体は弱っちゃうわね。」

●装具交換の苦労

「日常生活が人工肛門のために左右されるということはほとんどないね。ただ、取り替えるのが面倒ですよ。袋をはがして、きれいに洗って、上手に貼りつけるというのがなかなかね。誰か看護師さんでなくても、それをわかっている人がちょっと手伝ってくれると助かるのだけど。

見えないのですよ、上から見るから。こうする(上半身を反る)と見えにくいし、こうする(かがむ)とお腹が下がる、下がれば穴が下がるから見にくいのですよ。だから手鏡を向けて見たりして。やっぱり装具を取り替えるのがいちばんたいへんで、これがなかったら、本当にいいと思うけどね。

これは年とともに面倒だね。間違いなく袋の穴に、(人工肛門の先が)ちゃんと入っていないと、曲がっていたらいけないし。それで(人工肛門の周囲の)へこんだところを平らにするために、土手みたいにクリームを塗るのですよね。それが多すぎれば高くなるし、少なすぎれば低くなるでしょ。上に貼った袋がきちんと平らになっていないと、はがれやすいよね。だけど、はがれたときがたいへんだから、はがれないように貼るという技術がね。」

●自分で装具交換ができなくなった場合

「私は看護師さんに『手先が器用だ』と言われたけど。何か塗ったり切ったり料理したりするのは好きじゃないのね。だけど『器用だ』とよく言われる。それで装具交換をするときに看護師さんに『田中さん、器用だね』と言われて、『器用でよかったな』と思って。何が器用なのか、人と比べられないけど、今、全然誰にも(装具交換を)やってもらってないもの。全部自分でやっているものね。

ただ、自分でやれなくなったらこれはやっぱり訪問看護師にお願いしないと。今、週に1日来てくれているけれど、まだ全然やってもらっていない。だから最後は訪問看護師にしてもらうという手はあるけどね。もうそろそろ最後だから。

ぼけちゃって、こういうのがわからなくなったらたいへんだね。そういう人はどうしているのかわからないけど、家族もたいへんだし。あちこち汚したりしたら・・・。」

●年をとると手先が鈍る

「年をとってきて、やはり手の先も鈍感になってきていますし。88歳にもなると、箸をちゃんと握ってご飯を食べているのだけど、何かした拍子にぽとっと箸を落としたり。それから電車の切符を持っていてぽとっと落としたり。やっぱり手先が鈍くなっているのね。だから電車の切符は必ず入れるところを決めているんです。ひと駅行くときでも、決めたところに必ず入れておく。それはもう100%守っているの。だから電車の切符がどこに行ったかわからなくて探すということはない。年をとっても『これだけは100%できる』ということを決めてやっておくと、あたふたあたふたしないで済むね。」

●寝たきりになった場合

「だから、(自分で交換できなくなったら)いつでも看護師さんか誰かにやってもらおうと。今、袋を縦に付けているけど、寝たきりになったら袋を横に付ければ、看護や介護の人は楽よ。おしめみたいなものにべちゃーっと便が出たあと、お尻を拭いてあげなきゃならないということはないからね。ただ袋をはずして、入口を拭いて、巻いてバンとすればいいわけだから。

おしっこのほうは感覚がなくて出っ放しになっても、おしめをしておけばそれほどたいへんでもないんじゃないですか。そうなるまで生きたくはないけどさ。だけど人間、仕様がないじゃないね。自分で死ぬわけじゃないし。今、自分ではそういう心配は何もないけれども、年は確実に1つずつとっているわけだから。早死にすればそういうことはないけれど、長生きすればそういう心配もしなければなくなるわけよね。」