「退院する前に、帯津良一さんという有名なドクターと五木寛之さんが対談している本に病院の図書館でたまたま出会いました。その対談を読んでいるなかで、帯津さんの考え方がすごくすばらしいなと強く思いまして、それから帯津さんの本をたくさん読むようになりました。
困っているとき、すごくしんどいときにしか出会えないというところ、ありますよね。ただ読んでいるときはふーんと終わるのだけれど、何か求めているときには出会いがある。“求める者は救われる”とか聖書にもありますが、まさしくそうだなと思います。一生懸命読んでいる本の中から、『ああここなんだ』という経験を何度かしました。だから、文字のもつ力というのはすごく大きいなと思います。
私は今、死へのトレーニングみたいなものを(本を読んで)やっています。死というものを極端に怖がらない、そういうイメージです。私は何日後にどうなるかはわからないけれど、今は気持ち的にはそこまではできないので、一生懸命イメージはしていませんけれども。あまり先をみると『ああ、そこまではできない』と思うし。『今ここに』なのですね。階段でもずっと先を見ると登れないと思うけれど、目の前の一段一段を登っていったら、結局上まで登れていたよ、ということと一緒です。
でも『念ずれば花開く』とか、『笑顔が大事』とか、『感謝して過ごそう』とか、たくさん本にも書いてあるし、人は言われます。『自然治癒力は大事』なのだから『前向きに』だとか、頭ではすごくわかるのです。本も読んだ。読んだといってもたくさんは読んでいないですが、だいたい似たようなことが書いてあります。体験談で奇跡をおこした人はやはり皆ポイントを押えてそういうことなっています。しかし、体が順調になっていけば気持ちもそれに沿っていくけれども、体がこうなると心も同じように萎えてしまうのですね。そんなときにいくら言われても、感情が伴わない、やる気が出ないのです。
そういう時に私は一生懸命本を読み、3冊目に読んだ本のなかに『健全な思考』という言葉がありました。健全な思考というのは、“死ぬか生きるかわからないけれど、前向きに取り組んでいたら生きていける”という、そういう現実に基づいた思考で、そうすることがとても大事なのだと書いてありました。本当にそうだなあと思います。
その(落ち込んだ)ときはしっかりその気持ちに浸って、なぜこうなるかというのが自分を見つめる作業になって、そういうときに文章かもしれないし人の言葉かもわからないですが、いろんな出会いがあって、そのなかで何かがつかめる、その繰り返しかなと思っています。」
小川さんが出会った本
『健康問答』 五木寛之・帯津良一 著
『帯津流がんと向きあう養生法』 帯津良一 著
『がん治癒への道』 O. カール・サイモントン 著
『セネカ 現代人への手紙』 中野孝次 著