「いろんな効果があると思います。1つの指標として私どもが研究をしていたのは、入院日数が短縮されるということです。訪問看護をする前後2年間で、入院日数について1人の方をずっと追跡をしていったところ、入院日数が訪問看護導入前は平均270日位であったものが、訪問看護導入後は70日程度になったということがありました。4分の1に近い短縮効果があったという結果がありました。
入院の回数自体は減ってはいなくて、けっこう何回も入院されることはあっても、1回の入院が、効果的に短期間で、またお家に、自分の場所に戻れるというような効果があったということが、まずありました。
それから、当事者の方を対象に、満足度、そのケアに対してどのように満足していらっしゃるかを問うた調査もあるのですけれども、7割を超える方が、『自分を強める、力強める』というか、私達はエンパワメントと呼んでいるのですけど、力づけるような支援を得ることができたというふうに答えてくださった結果もありました。それなので客観的にみると、地域での生活の日数が増えること。主観的にみると、自分を力づけてくれるような支援を得られるということがあるようです。
「ご家族の方は、いろんな不安を抱えながら、『こういうふうになってほしいなぁ』という気持ちを当事者の方に多く持っていらっしゃりながら、『それを言っても大丈夫かなぁ』とか、『言ったらプレッシャーになってしまうんじゃないかなぁ』というような、同じ家の中にいても遠慮を抱えながらいらっしゃるように思うんですね。それなので、外から、家族と全然違う者が中に入っていかせていただくことによって、少しその動きが変わるというか…。
当事者の方は、『心配かけてしまうから』と思って家族に言えないことを、違う人がいる場所では言えるかもしれない。家族の方も、『本当は、薬飲まなくて心配なんだよ』とか、『また具合が悪くなっちゃうんじゃないかな』というようなことを本人には直接言えないけれども、誰かがいるところで、柔らかくみんなで話すことができる。あるいは、ご本人とご家族が同席でないほうがそういうことが話せるというご家族も多くあるので、ご家族とご本人とで別の時間を取って別々に複数で伺う。例えばソーシャルワーカー・精神保健福祉士(PSW)がご家族の話を伺って、看護師はご本人の話を伺うというように、平行してお話を伺うこともできるんですね。
それなので、ちょっと聞いてもらうだけでも、その問題自体がどうこうなるということではなくても、少し話せると楽になって生活が続けられるというようなことをおっしゃられることがあります。
それから、気が楽になるだけではなくて、例えば、『こういう制度を使ってみましょう』とか、『こういう手続きができますよ』とか、『この自治体では、例えば、訪問看護の自己負担分は、都道府県が負担してくださる制度がありますよ』というような情報提供もできますし、その手続きをお手伝いするということもできますので、そういったサポートになるのかなと思います。」
「例えば、いろんなものが見えるとかいろんなものが聞こえるとか、そういう病的な体験がある方は多いと思うんですけど、普段は、そういうことってあんまり人に言うと気味悪がられるとかびっくりされるということがあって、我慢していらっしゃるんですよね。で、私どもが、週に1回とか2回とか伺ってそのお話をある時間帯伺うとスッキリされて、それでまた、他の外の人に対してはそういったことはあまりおっしゃらないで済むようになるということは、よくおっしゃるんですね。それなので私達は、そういった体験の内容についても聞かせていただけるので、不安が軽減して、『こんなことを言っちゃったらどうしよう』とか、『でも、怖いんだけど、どうしよう』というような緊張を緩和するという働きはあると思います。
ただ、ご病気の症状自体を、訪問することで取り去ることはやっぱりできなくて、お付き合いをされるのを私達が支援させていただくということだと思います。なので、劇的な改善とか、すごく問題がなくなるとか、そういうことではないかもしれませんが、その症状と付き合われる中で、体験されるいろんなお気持ちを聞かせていただいて、安心していただくということは私達の大事な仕事だと思います。」
「制度上の名前が“訪問看護”となっておりますので、もちろん看護職は関わるのですが、保健師、看護師、準看護師、作業療法士、精神保健福祉士。これらの方々は、“複数職訪問”ということもできまして、いくつかの職種でご一緒に伺って、みんな専門が違うので、いろんなお手伝いをするというようなことも、今は制度上できるようになりました。
ただ、精神保健福祉士は病院からしか診療報酬算定できないと限定があったのですが、今年から訪問看護ステーションからも病院からも精神保健福祉士は、算定した訪問ができるようになったので、制度は充実してきています。」
「“アウトリーチ”というのは、日本語に訳すと“出前”という言葉を当てるんですけれども、今、国で行っている“アウトリーチ推進事業”という事業も、かっこ付けで『訪問型』と付いています。“アウトリーチ”というのは、病院の中で待っているのではなくて、出かけて行ってケアを届けるという形態を指すものなのです。
なので、大きく“アウトリーチ”というケアの形態があって、その中の制度化された一部分、今言ったような職種で提供しているようなものが“訪問看護”という制度。その他にもモデル事業では、ピアサポーターの方や心理技術者の方、栄養士さんや薬剤師さんといったような方達もチームで、今はモデル事業として展開されているので、アウトリーチのほうがより広い概念で、“訪問看護”というのはその中身のある制度化された部分ということになります。」